“SNAP ‘Hermitage Museum’@ St.Petersburg”                 (中編・エルミタージュ美術館)

「日本3大大仏」と言えば、奈良東大寺の大仏、鎌倉高徳院の大仏までは「確定」で不動だが、3番目は諸説ローカル色豊かとなり混沌としている。同様に「世界3大美術館」と言えば、ルーブル美術館は不動の1位で「確定」だが、2番目以降はエルミタージュ美術館を筆頭にニューヨークやマドリード、ロンドンや台湾など世界の「強豪」が渦巻く世界となっている。しかし、エルミタージュ美術館の歴史と品格を考慮すればNo.2は「当確」、と言うのが私見。
こうしたランキングを自分なりの視点と印象で、そしてこれからの訪問希望や夢も踏まえて考えてみるのは実に楽しい。

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今回訪問したエルミタージュ美術館は5つの建物で構成される広大な美術館で、収蔵作品数は約300万点とも言われている。建物自体も「サンクトペテルブルグ歴史地区とその関連建造物群」として包括的に世界遺産に登録されている。つまり、エルミタージュ美術館の建物自体が元宮殿の世界遺産であり、その中に展示されている作品も全てが逸品揃い。まるで玉手箱の中が玉手箱で溢れているというロシア特産の「マトリョーシカ人形」状態がエルミタージュ美術館の本質と言えるだろう。

とても一日では見切れないが、見事な館内装飾で溢れるエルミタージュ美術館の建物の中に我が身を置くだけでも、帝政ロシアの華麗なる歴史と傑作美術品の息吹を感じられる場所である。

エルミタージュ美術館「冬宮」の正面玄関はこちらの広場側。時間があればここもフォトジェニック。
ネヴァ川に面しているのが反対側。ツアーバスはコチラに止まった。帰る頃には小雨が降りだした。
まずは『ヨルダン階段』と呼ばれる赤絨毯の階段を登るところから始まる。
この冬宮の眼前を流れるネヴァ川をキリストが洗礼を受けたとされるヨルダン川に見立てて、
かつてのロシア宮廷であったエルミタージュ内で洗礼式を行ったことに由来する。
別名は『大使の階段』。帝政時代に皇帝に謁見する為に各国大使が通ったことに由来。
東宮の窓から眼前に流れるネヴァ川を臨む。
『ピョートル大帝の間』(小玉座の間)の見学へと続くのがコース順。
『紋章の間』は豪華絢爛なホールだ。4体の彫像にはロシア32県の紋章が飾られている。
『1812年祖国戦争』の画廊。英雄332名の肖像画に圧倒される。
ナポレオン軍との戦勝記念としてイギリスとロシアの画家が10年がかりで完成させたという。
歴代ロシア皇帝の玉座が置かれた『大玉座の間』(=聖ゲオルギウスの間)
イタリア・ルネサンスを代表する画家ラファエロの『聖家族』
そして左手奥に見える彫刻は・・・
無造作に置かれているようなミケランジェロ作品『うずくまる少年』
彫刻のミケランジェロ、絵画のラファエロ、というルネサンス絶頂期の両巨頭と対面できた。
「コネスタビレの聖母」ラファエロ・サンティ1504年(イタリア)
「聖母子」ジョバンニ・ディ・ピエトロの 16世紀の作品。
『カタリーナ・ミカエラ・デ・アウストリアの肖像』 (Portrait of the Infanta Catalina Michaela of Austria)
アロンソ・サンチェス・コエーリョ(Alonso Sanchez Coello)の作品。

時計好きにとっては『黄金の孔雀時計』は見どころの一つ。所謂オートマタで実際に動くのだ。
孔雀のみならずこのオブジェ全体がオートマタとなっていることに驚愕する。
YouTubeでその貴重な動きを観れるのでリンクを貼っておく: The Peacock Clock – YouTube
製作者:英国のジェームズ・コックス(宝石商・金細工師・時計師・起業家)
発注者: グレゴリー・ポチョムキン(ロシアの軍事指導者・政治家・貴族)
目的: エカテリーナ2世の芸術蒐集熱に付け入る為
『スペインの間』の『ドニャ・アントニア・サラテの肖像画』(Portrait of Doña Antonia Zárate)
作者フランシスコ・デ・ゴヤ(Francisco de Goya)
レンブラントの作品は24点も展示されている。垂涎モノだ。
レンブラントの大作で初のヌード画『ダナエ』(Danae)
1985年に硫酸を掛けられた事件やナイフで2回も切り付けられた曰くつきの名作。

残念ながら完全修復は出来ていない。
レンブラント作『フローラに扮したサスキア』1634年製も見える。
『バベルの塔』でお馴染みのブリューゲル作品もあるので嬉しくなる。
『フランス大使のヴェネツィア到着』 (The Reception of the French Ambassador in Venice)
作者はジョヴァンニ・アントーニオ・カナール(Giovanni Antonio Canal)
ベネチアのサンマルコ広場近くのゴンドラ乗り場を描いた作品。

この作品では以前に紹介した「カメラ・オブスクラ」という投影機器を利用して下書きを行っている点が注目される。
その効果は写真のように繊細で微細な点まで写実的に描けている点だという。
『The Lovers』(1524-1525) by Giulio Romano
ジュリオ・ロマーノはイタリア人でルネサンス中期(16世紀)の画家・建築家。

Wikipedia(抜粋)によると『バチカンの後期のフレスコ画やキリストの変容、「樫の木の下の聖家族」といった後期の作品は一般的にラファエロではなく彼の手によるものとするのが定説である。ラファエロとともにバチカン宮殿の壁画を描き、ラファエロが急逝した後に壁画を完成させ、名声を上げた』とある。

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1~2時間はあっという間に過ぎ去る。
出来れば最低でも半日は見学したいところだが、短期決戦のツアーでは効率良く回ることが鍵となる。事前に狙いを定めた作品を見学するもよし、成行任せで館内散策するのも良いだろう。

個人的には絵画鑑賞の愉しさはその「構図」鑑賞にある。
世に言われる傑作品は勿論、こうした一流美術館に展示されている作品を数多く眺めることで自然と眼が肥えてくる。即ち、写真趣味における「構図作り」にも共通する要素が溢れているのだ。
写真撮影では、やれ「日の丸構図」やら「二分割構図」やら「●×構図」にしましょうなどのアドバイスもあるが、実際の撮影段階ではそんなことを考えたことは一度もないしそんな余裕もない。
こうした絵画作品を鑑賞するにつれて「無意識の意識」が脳裏に焼き付けられる。それが写真撮影時に瞬時に脳内演算がなされて自然と自分のカメラのファインダー内にイメージ投影されることが理想だと考えている。つまり大袈裟に言えば美術鑑賞を通じて自分なりの美的センス(デザインバランス)が醸成されると思っている。漫然と絵画を見るのではなく、何か一つでもテーマを持って傑作品に接することでより深いインナートリップを愉しめるという副次的産物が得られる訳だ。

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エルミタージュ美術館は西欧のそれとは異なり簡単に再訪できる場所でもないので、事前の準備だけはそれなりに必要だと痛感した。今回、丸腰で訪問した自身に対する自戒の念を込めて…

(2023/7/13公開)3882

【参考】
・ロシア入国に関する情報は最新のものではありません。
・2023年7月13日時点で、外務省による対ロシア危険情報ではウクライナとの国境周辺地域が危険度4(退避勧告)、その他のロシア全域は危険度3(渡航中止勧告)となっています。
・詳しくは外務省の「海外安全ホームページ」をご覧ください:

  外務省 海外安全ホームページ (mofa.go.jp)

ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2023年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

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2 Comments

  1. 鈴木隆浩

    tommyさん、今回のブログも本当にすごいですね。
    芸術、美術、工芸、絵画など、そういう方面だけにとどまらないのでしょうが、
    まさにtommyさんは博識者です。
    黄金の孔雀時計の動画も参考につけていただけ、感謝です。
    まるでロボットみたいだと思いました。
    それと、細かい装飾や動物も、トンボもびっくりでした。ありがとうございます。

    1. ゼンマイオヤジ

      コメント有難う御座います。
      博識ではなくて「薄識(浅識)」なので何とか凹の部分を埋めたいと思っています。
      孔雀時計の動画には私も感動しました。英国から取寄せた時点ではパーツ状態で、それをロシアの技師が組み上げたことにも驚きます。今回のバルト海クルーズネタも残るはあと2話となりました。我ながら名残惜しい気がします。

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