“今年のGWは「ライカ本三昧」で過ごす”

【再読も含めて今年のGWはライカ本に浸る】

連休の重なる混雑時に敢えて自ら飛び込むことは昔から避けている。
ただでさえ窮屈な日本列島において、更に自分のペースで移動も瞑想も費用もままならぬGWであれば動かぬ方がマシだ。という訳で今年は図書館を活用してライカ関連書籍と向き合うことにした。昨今の図書館では希望を出せば最新の書籍を購入して頂ける有難いシステムもあるので、最近出たばかりのライカ本との予期せぬ遭遇に恵まれるチャンスも大いにあり得る。

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今から約30年ほど前、突如としてクラシックカメラブームが国内で巻き起こり、田中長徳さん(1947-)や赤瀬川原平さん(1937-2014)らによる「ライカ本」が怒涛の如く発刊されて世の中のライカブームを牽引することになった。当時はまだまだフィルムカメラ主流の時代ではあったが、カメラではなく写真に向き合う人々の心は今も昔も変わらないはずである。若しも変わっている点を古い書物から発見出来れば儲けものだ。

やれ、ライカM3だ、M4だという話題が当時の時代背景からして主流となるのだが、その屋台骨には「ライカ哲学」とでも言うべき姿なき御本尊が鎮座しているので、それを取り巻く人々の様子を垣間見るだけでも面白い。そんなライカ本を何冊か紹介してみたい。

以下は全て図書館から借りてきたものだ。
費用を掛けずとも身近な場所で「宝探し」をするのも乙なものだ。

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【M型ライカとレンズの図鑑】
2007年4月に発行されたムック本だが、M2からデジタルのM8までを詳しく解説しており、レンジファインダーの構造や分解写真、後半では主要なライカレンズについても懇切丁寧に述べられている。所謂、ライカに関するABC本だが、豊富な写真とデータもあるのでM型ライカの勉強には大変参考になった。ライカカメラとレンズの知識集積には有益だろう。今でも電子書籍で入手可能だ。

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【撮るライカ】
報道カメラマン・文筆家でもある神立尚紀さん(1963-)の視点によるライカへの思いや随筆の集大成。読み応え十分の力作。

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【ライカな眼】
副題の『LIKE A LEICA EYE』というキャッチコピーも秀逸。
ライカ名手のプロ中のプロ、「あたしゃチリトリ、写真トリ」の名言を残した高梨豊さん(1935-)の写真人生哲学が詰まった自伝的な一冊。帯には「ライカ同盟」三銃士の一人、赤瀬川原平さんの「らしいコメント」も光る。同時代の「同僚」達との対談も興味深い。

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【パリ開放】 
誰が命名したか知らないが、この手の本ではピカイチの題名だと思う。
これを読んだら、もう、ロンドン開放でも、東京開放でも、下町開放でも何でもよい。「絞り開放」で好き勝手、自由気ままにに撮りたくなる一冊だ。赤瀬川原平さん、秋山祐徳太子さん(1945-2020)、そして家元である高梨豊さんの「ライカ三銃士」による「ライカ同盟」はライカ愛好家グループ発足の魁とも言えよう。
余談だが、先日のあるテストで、①パリ開放 ②パリ解放 ③パリ快方 ④パリ介抱、の4択があったのだが、思わず①を選びそうになった自分に苦笑。

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【パリ残像】 
ライカM3/M4とレンズはf2/35mmズミクロン、f1.4/50mmズミルックス、f2.8/90mmテレエリートを使いこなしたライカの巨匠と言えばこの方以外にはいないだろう。第二次大戦後、日本人として初めて欧州で撮影したプロカメラマンが木村伊兵衛さん(1901-1974)だったとも言われている。
アンリ・カルティエ=ブレッソン(1908-2004)との交流やロベール・ドアノー(1912-1994)の案内で撮影した感度ASA10の国産カラーフィルムによる味わいが何とも言えない。白黒写真が中心であった時代に、半ば実験的にカラーフィルムを利用したことは当時としては可也の勇気ある決断であったことだろう。その色はオレンジ色味が強く、ふんわりと滲む映像であり、ライカレンズの成せる業なのかもしれない。
1954年当時、今から70年前、斯くも生き生きとしていた庶民の姿や美しいパリ。
日常生活のエネルギー溢れるパリの下町をドアノー同伴でフォトウォークした同氏の姿を想像するだけでも貴重であり、実に愉しい。時代考証的にも貴重な写真集だ。
興味ある方は氏の歩いたパリの撮影場所を追った「聖地巡礼動画」もYouTubeにあるので、ご覧頂ければ更に感動が深まることだろう。

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【偽ライカ同盟入門】【晴れたらライカ、雨ならデジカメ】【ライカを買う理由】
ライカと言えば一にも二にもこの人抜きでは語れない。ライカ本の執筆は100冊を超えると言われ、写真家、評論家、文筆家として時代を牽引したライカ通の第一人者でもあり洒脱なエッセイストでもある。その田中長徳さんが「偽ライカ同盟」を名乗らざるを得ない背景には悲哀さえ感じる。

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【老人力~大活字本】 
図書館で偶然に見つけた「大活字本」。
こんな本があるとは知らなかった。弱視者、低視力者が裸眼で楽に読めることを目的に出版されているのだが、老眼世代にもうってつけであります。「タクシーに忘れたライカ」の件には笑ってしまった。どなたが何を忘れたのかは伏せるが、そんなことがあるものだと「老人力」の威力にはちょっとビックリしつつ我が身を引き締めたのであります。
赤瀬川原平さんのエッセイはキレッキレで小気味よい。画才にも長けた御仁なので、氏の手書き「カメライラスト原画コレクション」(玄光社)も必見。
因みに本来の「老人力」の使い方が世間では間違っているケースも散見されるので以下に正誤の例文を添えておく。

誤)歳を取ると若者には気付かない気配りや行動と言った老人力ならではの良い面も生じる。
正)加齢と共に体のあちこちに不自由が生じ、物忘れも日常茶飯事。自分にも老人力がめっきりついてきた証拠だ。

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【雲の上はいつも青空】【1970年、二十歳の憧憬】
ハービー山口さん(1950-)の青春の原点とも言える作品集。公園で偶然に出会ったバレーボールの練習をしていた女子学生の瞳に心ときめかせたハービーさん。50年後に池上の同じ場所で彼女と再会する様子はYouTube動画でも見れるが、誰しもが胸に抱いているであろう甘くて切ない青春の時間を思い出させてくれる一冊だ。
余談だが数年前に、ハービーさんが上記の女子学生そっくりのモデルを再現形式でポートレート撮影していることからも同氏の彼女への、そして当時への思いを察するのである。

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【赤城写真機診療所】【同・MarkⅡ】【銀塩カメラを使いなさい!】
皆さん大好きな「赤城節」が存分に堪能できます。解説無用のおススメ本。
赤城耕一さん(1961-)の独特な文体は時に真面目に、時に比喩と妄想を交えて噺家のような軽妙なリズム感を感じる。その内容を鵜呑みにする読者はいないと思うが、特に「診療所」では半分がDr.赤城一流のジョーク満載、というのが本質です。(個人的解釈)

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【晴れときどきライカ】
【オールドレンズはバベルの塔】
この2冊が既に図書館にあるとは少々驚いた。
多くの肩書を持つ落合陽一さん(1987-)はメディアアーティストとしても活躍中。
昨年のライカ銀座店に於ける同氏の写真展も拝見したが、独特の文章表現とメディア用語等を多種多様に駆使した随筆はコチラの「脳ミソの体操」にもなる感じだ。

一方の澤村徹さん(1968-)と言えば、2010年のαNEXシリーズの登場以来、デジタル時代におけるオールドレンズの活用法とレンズ沼を世に広めたパイオニアの代表格。
しかし、当時はまだまだデジタルに対する強烈な拒絶反応やあからさまな反対派がプロの中にも少なからずいた時代だ(今でもまだそうか?)。そんな荒波に揉まれつつ、氏の生活感あふれる奮闘記が各レンズに重ね合わせられて、文字通り、「人生色色」、「人生は多重露光撮影」の記録のようで愉しめる。
赤外線撮影による写真展での「事件」には深いため息がでてしまった。

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【THE UNSEEN SAUL LEITER】(まだ見ぬソール・ライター) 
ソールライター(1923-2013)の短編映画にも登場したが、彼の仕事場の光景が忘れ難い。
個人的にはこうした「現場の光景」が好みだ。
Kodakの発色、構図、モチーフ、角度、そして光と影。全てが印象深い。
ライカ本という訳ではないが、何度でも見ていられる絵画展の図録のような写真集だ。

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【ライカと歩く京都】
最後はこの本。
題名から「ライカ本」と勘違いする読者もいるようだが、これは歴とした「京都の愉しみ方」を伝授する「How-to本」であり、敢えて言えばライカは添え物である。
筆者の小山薫堂さん(1964-)がとある理由から京都に住むことになり、京都の町に親しみ、溶け込み、しきたりさえも楽しむ姿を語っている。ライカで撮影した写真も挿入しつつ綴った「京都愛+ライカ愛」が溢れる内容である。
京都フォトウォーク時には自分も大いに参考にした愛読書の一冊。

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上記以外にも素敵なライカ本は山ほどあるだろう。
異常なる超円安続きで毎年高根の花の記録を更新し続けているライカのカメラやレンズに一喜一憂するのも良いが、自分好みの写真集鑑賞や他人の思考回路を俯瞰することを通して、結果的に撮影時のインスピレーションやモチベーションを高めることが出来ればしめたもの。

温故知新の世界は何時の時代でもまんざらではないようだ。

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(2024/5/3公開) 33840    ※ブログ内容は適宜、加筆修正しています。

ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2023年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

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