『現行ズミクロン35mmの外観デザインを讃え尽くす』

【総論】

どんなカメラで撮ろうとも写真は最後にレンズで決まる。
レンズは描写力こそが命。
その描写力を何に求めるかはユーザー毎に異なる。
しかし、「ボロは着ててもこころは錦」の写りをすれば良いのだろうか。

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筆者の趣味嗜好の分岐点は腕時計同様、外観デザインが好みに合うか否かに尽きる。
仮にレンズ性能が凡庸でも全体のデザインバランスが良ければ許せる。
その逆でレンズ性能がどんなに良くてもデザインバランスと質量が好みでなければ持ち歩く相棒としては対象外だ。その前提として、現代のレンズであれば廉価クラスと雖もその光学性能に破綻をきたすことはまずない訳で、重箱の隅をつつくような収差の話やらボケ形状云々を言い出せばキリがない。結局それら全ては個人の趣味の範囲の問題で、その気になれば後処理で修正も可能であるからだ。商業写真家ならばいざ知らず、写真で大切なことはもっと他にあるのではなかろうか。

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【外観デザインでレンズを選ぶという考え】

独断と偏見を恐れずに言えば、ライカというブランドはその外観のデザインが突き抜けて完成度が高いが故に、カメラであれレンズであれ惹かれる魅力を秘めていると感じている。
機能がデザインを生むとはよく言われるが、そう簡単に良質なデザインは生まれない。
俗に言うオーラを感じる類の源泉は最初に緻密に計算されたデザイン在りき、というのが持論である。

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ROLEXサブマリーナの全体デザインがダイバーズウォッチの「標準原器」と考えている。
同様にライカM型デジタルカメラ(以下M型)は箱型デジカメデザインの「標準原器」であり、他ブランドがどんなに優秀な機能を持つ箱型カメラの類似製品を出そうとも、「ライカ似」、「あのカメラに似ている」などの形容詞が付いて回る宿命となる。その結果、筆者のような「箱型カメラ偏愛家」は巨大竜巻に引き寄せられるが如く、一度はライカという「標準原器」の世界に辿り着くことになるのであった。

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【耳なし芳一的な被写界深度指標に惚れた】

M型ではレンジファインダー方式を採用しているので、そのレンズにおいては「距離計指標」と「被写界深度指標」が実用上からも、そしてデザイン上からも最大の特徴となっている。中でも放射状のギザギザ指標がプリント基板の如く、「広範囲」に刻印された現行ズミクロン35mmの「被写界深度指標」のデザインは幾何学的な完成度を誇る。レッドドットとオレンジインキ、ホワイトインキの「距離計指標」との対比とも相まってこれぞライカとしてのオリジナリティの具現化がここにある。フィルム時代の一眼用国産MFレンズでも「被写界深度指標」を持つのは普通であったが、ここまで大胆で大きな表示を持つレンズは稀有だろう。正に「耳なし芳一」の全身経文刷り込み状態を彷彿とさせるのが現行ズミクロン35mmである。

加えてアルミ製鏡筒に「コーナー穴あき角型フード」を合わせた造形美は最早、工芸品の域に達している。今となっては、この容姿を見るだけでも対価を支払う価値が十二分にあると感じており、それこそが撮影するモチベーションを大きく助長してくれる、というのが筆者の率直な見解である。肝心のレンズの描写力云々は公開済のFOTOLOGに譲るとして、惹かれてやまないその外観のデザインにこそ現行ズミクロン35mmの最大の魅力が宿ると讃えたい。

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【各論】

レンズ鏡筒上の刻印が「プリント基板」や「耳なし芳一」の全身経文を彷彿とさせる。
それでもゴチャゴチャとした印象を与えずに引き締まって見えるのがライカマジック。
とは言え、実用面では「被写界深度指標」を瞬時に判読するには慣れが必要だ。
「プリント基板」のように「角度が付いた棒線」を目で追うプロセスは

「7枚玉」のようにシンプルな直線で迅速な判読性を誇る訳では無いことだけは付け加える。
昔の国産レンズでも付いてきた円筒形の革製ケースは現代では稀有な存在だ。
Summicronの革製ケース内には角型フィルターを装着したままで収まる形状の

クッションも施されている。加えてアルミ製レンズキャップと化粧リングもケース底に収納できる。
ユーズド品では元箱はおろか、革製ケースや化粧リング、はたまたレンズフードまで無いものも

多々見かけるが、やはりこうした備品は最初からフルセットで入手したいものだ。
化粧リングは角型フードを装着しない時や、
サードパーティー製フード取り付け時にネジ切り部の目隠し用に活躍する。
純正角型フード装着時の写真。
フードの「胴体部分」が
煙突」のように間延びしているので多分に冗長な感じを生むが、
逆にフードを装着することで鏡筒側面のラインが面一(ツライチ)となる。
そして、角型フードがピタリと水平位置に収まるギミックは流石だ。
Summicronはネジ込み式、後述Noktonはバヨネット式。共に水平装着が見事に決まる。
それにしても、やはりこのフードは長すぎてとてもコンパクトとは言い難い。
水平がピタリと決まる秘密がここにある。赤丸部分に段差が見えるのが「切り欠け加工」。
ココとレンズ本体側が嚙み合うことで位置決めが出来る構造だ。単純な構造だが見事なギミックである。
旧型フードより四隅への張り出し部分が大きくなった。コーナー穴あき角型フードは多分現行では35mmのみ。
Summilux35mmやSummicron50mmではフード収納式になったことからも、

今後のトレンドは収納式だろう。このネジ込み式穴あきフードはデザイン的にも貴重である。
因みに上写真はアポズミ35mmだが、角型フードはレンズ鏡筒の断面積内に収めているので
可也コンパクトになっている。フードの厚み(高さ)も低いことが分かる。但し重量は320gで重い。

これが次世代SummicronF2.0ASPH.のフードの姿になるかも知れない。
円形フードと化粧リングの装着時には、F値リング上部の凸凹ラインが気になるところ。
美的ラインには程遠いが、コンパクトな円形フードは実用上では角型よりも扱い易い。
安価なサードパーティー製丸型アルミフードでも雰囲気十分。角型や丸型フードを使い分ける楽しみも格別だ。
ここで現行Voigtlander Nokton Vintage Line F1.5 Asphericalの登場だ。
Nokton用の純正フード(LH-12)は「結晶塗装」の金属製で独特の雰囲気を醸し出してくれる。
プッシュ式のバヨネット脱着式で非常に使い易い。
レンズ構成は異なるが全長はNokton(Type-I)が36mmで188g、マットブラック塗装。
同Type-IIは外装が真鍮製で284g。
Summicronは35.7mmで252g、ブラック塗装の光沢感が重厚だ。

両者ともに鏡筒はアルミ製でこのNoktonも素晴らしいデザインと描写性能を誇る。
しかし、Summicronはアルミ製でも決して軽いとは言い難い。
Noktonは2022年11月発売、現行Summicronは2016年1月にリニューアル発売された。
Noktonの鏡筒側面ラインは面一(ツライチ)の処理でスッキリと纏めてあるのが分かる。
写真では共に39mm径黒枠&無刻印フィルターを装着しているが両者の鏡筒デザインは近いことが分かるだろう。但し、「被写界深度指標」とフォントの大きさで圧倒的存在感を誇るのがSummicronの特徴だが、逆にフォントの大きさが仇となり、瞬時の判読性ではNoktonに分がある。
また、Noktonは開放f1.5とf5.6が、Summicronはf2.4とf4が目盛りのみとなっている。

Summicron(右)のフォーカシングレバー先端は鋭角過ぎて指に刺さるようだ。
個人的にはこの点でもソフトタッチで扱い易いNoktonに軍配が上がる。

ヘリコイドの滑らかな回転フィールは略両者互角。
絞り羽根形状はNoktonの方がスッキリとしているが、Summicronでは周辺部の羽根処理がザワついており、
設計方式の旧さを感じさせる。Noktonにレッドドットを装着したのはご愛敬。
ライカ公式HPによると、『Mレンズのバヨネットリングに付いている6ビットコードは、
デジタルM型カメラが使用レンズの種類を識別して画像データを最適処理するためのコードです』とある。
つまり、①レンズの識別と、②画像データを最適処理、するためのもの。
6ビットコードは電子接点ではないのでExifデータが緩い。

例えばレンズはf2開放で撮影しても、exif上の記録ではf3.5になるケースも発生する。
ISOとSSはカメラ本体内のデータゆえ正確に記録されるが、f値についてはあくまで参考程度ということだ。

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【腕時計同様、レンズだって重量にコダワル】

個人的には50mm以下の単焦点レンズの重量は250~300g以下でないと苦痛に感じる。
筆者のM11とこのレンズでは革ケースとストラップ込みで約960gの重量となる。
レンズ単体では公称252gだが、それでも決して軽くはない。
(※新型ライカQ3の総重量は743gだから、M11+ズミクロンの総重量では200gも重くなる)


理想は200g以下だが、ライカ式ビルドクォリティ追及の結果、そして収差を徹底的に減らす為に非球面レンズやら枚数を増やす昨今のレンズ構成では結果としての重量増という「副作用」が生じてしまう。近接撮影距離が0.7mなのでテーブルフォトには不向きだが、超近接撮影にはクローズアップフィルターや「エクステンションチューブ」を使えば可能性が広がる。APSのX-Pro3に装着すれば換算53mm相当になり、ヘリコイド付きアダプターを使うので20cm位まで寄れる。「一粒で二度おいしい」というやつだ。

将来、この後継レンズがどのように進化するかは分からないが、今回入手した現行Summicron35mmはそのデザインバランスの完成度からも間違いなく筆者の生涯を共にするレンズになるだろう。

(2023/8/6公開)4482

ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2023年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

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2 Comments

  1. 鈴木隆浩

    ズミクロン35㍉、いいですねぇ。
    私は、この2年くらいで、欲しいなと思って買ってしまったレンズは、ほとんど手に入れてしまい、そのすべてを動画で登場させてきましたが、
    実はまだもう一つほしいレンズがあるんです。
    ただ、それは中古しかないので美品以上を物色中でもあり、なかなか出てきません。
    あと、アポズミ35は、すでに1年6ヶ月、待ちっぱなしです。
    Tommyさんは、気になっているレンズってまだありますか?

    1. ゼンマイオヤジ

      現行ズミクロンは決して軽量ではなく『小型ですが相応に重いレンズ』です。アポは更に重厚です。残る興味は24-120㍉程度の万能ズームですが、必要に迫られていないのでまだ買いません。
      勿論、M以外の話です。

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