『EVF付きM型ライカの未来予想図』

1. ライカ上級副社長発言の波紋: 

ライカ好き界隈ではここ数年、EVF注1付きM型ライカについての話題が消え去ることなく囁かれている。果たして将来的にM型ライカにEVFは付くのだろうか。この機会に以下雑感を述べる。
注1EVF=ElectricViewFinder、電子ビューファインダーのこと。背面モニターとは別の液晶ファインダーを通じて被写体を見る仕組み。

2022年10月19日付けの”Leica Rumors”上で、ライカ上級副社長Stefan Daniel氏のコメントが載っている。極めて興味深い内容なので該当部分を以下原文のまま引用する:

『Leica M camera with EVF (rumored for years) – I will use a quote here: “Stefan surprised the audience by saying that if there were sufficient demand, Leica would consider producing an M with EVF. Asked how many they would need to sell in order to make such a decision, he estimated a couple of thousand”. Update – the quote was later clarified as “several thousand”.

つまり、Stefan氏発言の要点は、
①十分な需要次第ではEVF付きのM型ライカの生産を検討する(ことも吝かではない)
②その為には数千台の需要(販売)が前提となる
ということである。

ご存知の通りM型ライカのMとはドイツ語のメスズハーmesssucher、即ちrangefinder=光学視差式距離計の頭文字である。現在、35mm版フルサイズのレンジファインダーを搭載するカメラを生産するのはライカだけ注2であり、それ以外の『箱型デザイン』で外見が似ているカメラを巷では『レンジファインダー風』カメラなどと呼称する。
M型ライカの軍艦部にはこの精密な距離計部品がぎっしりと詰まっている(冒頭写真=ライカ公式HPではM11の分解図が掲載されているので良く分かる)。つまり、レンジファインダー機構を維持しつつEVF化することはスペース的にもまず不可能。となると、M型にEVFを搭載するということは、レンジファインダー方式を諦めて、単にM型のデザインをしたミラーレス一眼ボディを作ることに他ならない。つまり、豊富なMマウントレンズをアダプター無しで装着できる『Mマウント式のEVF搭載ミラーレスカメラ』を作るというのが基本構想になる。云うまでもなくフルサイズ式である。
注2後述するフランスのPixiiもAPS-C式だがレンジファインダーを生産中。

確かにマウントアダプター無しでライカMマウントレンズを装着できるフルサイズのデジタル一眼カメラはライカMシリーズ以外に現時点では存在しない。ライカSL/SL2もMマウント用アダプター装着が必須である。なるほど、ライカ好き界隈での噂が立つのも理解出来ないことはない。レンジファインダー方式では視差の問題で最短撮影距離は70~100cmに限定される。今時、テーブルフォトも撮れない、近寄れないカメラは実に不便だ。更には昨今の4000万画素をも超える高画素化時代においてはレンジファインダーによる薄いピント合わせも容易ではない。中望遠系レンズでは尚更だ。よって、EVFを搭載する意義と需要はそれなりにあるだろう。アポズミクロンのレンズで6000万画素で撮影する場合には、ピントを追い込む意味からもレンジファインダー式では簡単ではないことも理解出来る。ビゾフレックス2が発売されている理由は正にこの点なのだから。また、最新のアポズミクロン35mmレンズでは近接30㎝も可能にしているが、レンジファインダーでの合焦は無理で、あくまで背面モニターを使うかビゾフレックス2が必要となる。

とすると、若しEVF方式のM型カメラを開発するのであれば、最低でもM11同等の6000万画素、若しくはそれ以上の高画素センサーを搭載することに意義が見いだせる。将来的には1億画素クラス以上の対応も可能とすることでレンジファインダーカメラとの差別化を図ることは十分にあり得るだろう。

そのためにはStefan氏発言の通り『数千台の需要が必要』とのことだが、仮に5千台としてもレンジファインダー機のサブ機としても世界市場が対象である限り十分到達可能な数字と思えるのだがどうだろうか。

2. M型EVF搭載カメラの未来予想図:

しかし、アマチュアカメラマンが趣味でM型ライカで撮影する対象は日々の生活や身近なSNAP、旅行時や風景写真を撮影することであって、高速連写や超高画素の活用は極めて限定されるだろう。加えて価格面も大きなカギとなる。そんな営業戦略面も考慮すると、EVF搭載M型ライカには2種類のバリエーションが考えられる。即ち:

1) 超高画素センサー(1億画素クラス)搭載で超高精細EVF搭載のプロモデル
2) 価格を抑えた2400万画素クラスセンサー搭載、EVFは5~600万画素クラスでMマウントレンズが装着できることを売りにしたデザイン優先の廉価版モデル
3) 上記2種類共にミラーレスだが、ファインダー内の画面ではレンジファインダー同様にブライトフレームを完備し、その枠外も見えるようにする。(これはX-Pro3でも実現できていない)

どうだろうか。僕の予想では圧倒的に上記2)のモデルが売れ筋になる気がするのだが。Qシリーズとの棲み分けはMレンズ交換方式にかかっている。

3.  M型ボディデザインはレンジファインダー方式と並ぶライカ最大の遺産である: 

レンジファインダーを搭載しないでM型ライカと言えるか?という疑念もあるかも知れない。僕の結論は大いにアリ、である。1954年に登場したM3から今日のM11まで連綿と続くこのデザインは、ライカの所有する最大の遺産であると同時に未来への財産でもあると考えている。ヒトもカメラもまずは外見が大切。『ボロは着てても心は錦』を否定はしないが、ことライカにおいてはこの削ぎ落された直線美からなるM型の『ライカライン』こそ、最新のミラーレス機に置き換えても何ら違和感はないし、Mマウントを備える限りにおいてはM型と名乗ることこそが『ライカの正義』であると考えている。要は、Mマウント搭載こそがM型と命名する為の必須条件であるのだ。例えEVFのあるミラーレスであっても、従来からのM型デザインを踏襲する限り全く違和感は無いし、逆に他の型式を襲名することはMマウントに対する冒涜(ボウトク)とさえ僕は感じている。

ライカMマウント

4. もっと身近な代替案は無いのだろうか:

ここからはライカカメラから少々離れて考えてみたい。
所謂、レンジファインダー風カメラのデザインとしてはフジフィルムのX-ProシリーズやX-Eシリーズ、そしてX100Vに代表されるX100シリーズが最右翼に挙げられるだろう。ここではレンズ交換式と言う観点からはX-ProとX-Eシリーズの両者に焦点を当てる。
MマウントからXマウント用の変換アダプターを使えばライカMマウントレンズの使用は可能である。しかし、残念ながらフジフィルムはAPS-Cサイズのセンサーなので、Mレンズの焦点距離は1.5倍となる。若しもフジフィルムが35mmサイズのセンサーを採用していれば、何のことはない、フジフィルムのカメラこそが既にEVF搭載のM型カメラ(あくまでもMに似ているという観点から)と言えただろう。これは想像しただけでも心ときめく。

5. R-D1復活の待望論:

嘗てエプソンとコシナが2004年に共同開発したR-D1やコシナによるBESSA(=Mマウント方式のフィルム式カメラだが)を除けば、Mマウント搭載のライカ製以外のカメラは21世紀に入って消滅してしまった…、と思っていたら、2018年にフランスのPixiiがライカMマウント交換レンズに対応するレンジファインダー式デジタルカメラ(APS-C)を発売した。(詳細はリンク先でどうぞ)

Mマウントを採用するカメラ生産にはライカとの間に特許問題等が存在するのかは定かではないが、再度、エプソンとコシナがタッグを組めば最新鋭機種を生産することも可能だと思うのだ。勿論、今度は35mmセンサーで、だ。デジタルカメラ販売台数の漸減傾向に歯止めがかからぬ現在、市場への大きなカンフル剤が求められている。そんな観点からもMマウント方式でEVF搭載の35mmセンサー搭載の一眼カメラ(AFは位相差でもコントラスト方式でも良い)を開発することはこの時期であるが故に大いに意義があると考えている。特にライカや他社がそれを実行する前に、今回もエプソンとコシナが出し抜けば『世界初のMマウント方式フルサイズEVF搭載カメラ』と言う称号を手中に出来るのだ。これは想像しただけでも鳥肌が立つ。

ライカファンとしてはあくまでもM型のあのデザインを踏襲したボディを待ち望んでいる訳だが、仮にノンライカ製でも市場競争原理からも、そして消費者の選択肢が広がるという観点からも個人的にはフルサイズ方式の新R-D1のセンセーショナルで新たなる登場を大いに期待している。

Fujifilm X-Pro3(上) & Leica M11(下)
X-Pro3の『ハイブリッドビューファインダー』は決して色褪せない驚異の技術力の結晶だと思う。

6. フジフィルムのカメラはその可能性がもっと見直されても良い:

APS-Cセンサーの問題はあるが、僕が今でもX-E2を愛用する理由は、発売後約10年経過しているにも関わらず、度重なるファームウェアアップデートによって必要にして十二分な性能を誇る『ライカ似のEVF搭載機種』であるからだ。既報の通り僕は『高画素無用論者』でもある。X-E2は1600万画素センサー搭載でEVFを有する箱型カメラだ。画質面での不満は皆無である。基本的な機能面では、例えばM10やM11からレンジファインダーを取り去り、ファインダーをEVF方式とし、電子シャッターも1/16000秒を搭載するなど、その性能とデザインはライカM型に最も近い。APS-C方式で焦点距離が1.5倍されることを逆手にとって、1本のMレンズをライカとフジフィルムのカメラで使えば2倍の楽しみ方が出来る訳だ。例えばMレンズ35mmはX-E2では約53mm換算で撮影できることになる。一粒で二度美味しいグリコの世界がライカの世界でも広がる訳だ。おまけにX-E2ボディはM11と極めて骨格も似ている上に一回り小さい350gと超軽量だ。X-Pro3になると『なで肩』のデザイン面で可也異なるが、それとてライカに酷似することを避けて、あくまで自社としての独自性を追求した結果であり、デザイン陣の苦労のほどが感じられる。若し思い切ってX100Vのような直線的なデザインでMマウントを直搭載すればセンセーショナルとなることは間違いないだろう。

Fujifilm X-E2(上) & Leica M11(下)

とは言え、フジフィルムがMマウントを搭載することは容易には考えられない。既にフジフィルムはXマウント用にMマウントアダプターまで自社生産・販売している唯一の純正カメラメーカーである。ライカへのリスペクトがにじみ出ている。しかし、企業としての哲学はXマウント最優先であり、他社製のMマウント式カメラを出すことは有り得ないだろう。となると、『APS-Cの1.5倍』を逆手にとって『一粒で二度の美味しさ』をもっと活用してもよかろう。レンズ交換の代わりにボディ交換をすることでMレンズを幅広く活用できるのである。

近い将来、X-Pro4やX-E5の登場も期待されるが、どのようなデザインと仕様になるのかが注目される。第5世代のエンジンを搭載するからと言ってむやみに4000万画素の高画素化には走らないで欲しい、と言うのが個人的な希望である。そういうことはX-HやX-Tシリーズでやればいいことであって、X-EやX-Proシリーズではもっと趣味性に特化したベクトルで邁進して欲しいと切に願う。

***

今年ももうすぐ桜満開の季節を迎える。
春のおぼろにそんなことを夢想しつつ、これからのマイ写真ライフを考えている。

(2023/3/8公開) 829


ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2023年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

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3 Comments

  1. 鈴木隆浩

    いやぁ〜、すごい解説でした。おっしゃる通りだなと思います。
    多分、Mの姿のまま、新しいファインダーの新機種が出たら、買っちゃうだろうなって思いました。
    ただ、個人的には、防塵防滴のM11のほうが欲しいかな。^_^

    1. ゼンマイオヤジ

      M11は「ごく軽度」の防塵防滴仕様だと思っています(推測)。問題はレンズ側にあります。Voigtländer も同様です。この点については次回に述べたいと思います。

      1. 鈴木隆浩

        やはり、そうなんですね?なんとなくそんな気がしてましたが、
        次回の素晴らしい考察、すでに楽しみになってます。
        o(*>▽<*)o

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