目次
1.CWCとは
2.今井今朝春氏の解説
3.疑問の提起とその反論の論拠


1.CWCとは:

このブランドを知っている人はミリタリー通と言えよう。
逆に知らない人は多分、ミリタリー時計に興味が薄い人。
CWCは近代ミリタリー時計を語る上で一つのメルクマール的なブランドである。
時計趣味は時計を所有するかしないかではなく、知っているか知らないかの知識量こそがその愉しみを最大限に深める要因だと思っている。
時計趣味の世界では『知らぬが仏』、『知らぬが花』(Ignorance is bliss)は通用しない。

しかし、身も蓋も無い言い方であるがCWCを知ろうが知るまいが人生に及ぼす影響は皆無であることも事実である。それでも、人類が生み出した「時間の概念」とそれを計測する時計の文化的遺産の側面をCWCという断片を通して理解することは時計趣味における「小さな醍醐味」に位置付けることが出来ると考えている。

***

”Cabot Watch Company”は1972年に設立されたミリタリー時計の専門ブランドだ。
設立当初の正式名称は、”Cabot Watch and Clock Co Ltd”であり、後の1981年に現在のCabot Watch Company(=通称CWC)と社名変更された。元来、英国国防省(=MoD)への納入が起源であるB2BブランドのCWCゆえに、世間一般における認知度は非常に低いのが現実だろう。


2.今井今朝春氏の解説:

CWCを語る前に、まずは軍用時計に関する『バイブル』とされる今井今朝春氏著の『軍用時計物語』について触れる。1990年に初版が発行された同著の中でCWCについて何度となく述べられている。中でも以下が代表的な記述である:
  
『(前略)そして近年ではCWC(コンコルド・ウォッチ・カンパニー)のような
  時計エージェントを立てて、ミルスペックに合った時計を探し出し納入させる
  調達方法をとってきた。』(155-156頁)

『CWCはコンコルド・ウオッチ・カンパニーの略で、時計メーカーではなく、
  ロンドンにオフィスのあるエージェントである。』(284頁)


『エージェント』と指摘される『コンコルド・ウォッチ・カンパニー』とは何者か?
筆者は色々と独自調査を行ったが、本件に相当する『コンコルド・ウォッチ・カンパニー』は遂に発見できなかった。逆に、今井氏の記述が誤りではないかとの確信に至った。

3.疑問の提起とその反論の論拠:

IWC(=International Watch Company)に代表されるように、社名に○×Watch Company(=WC)を付けるブランドは昔から山ほどある。さしずめ、日本で云う所の、○×時計店、という感じであろう。
今回のCWCも正に該当する訳であるが、『コンコルド』と言うのは今井翁の誤解からの記述に依るものでは無いかと考えるに至る。同著の巻末に参考文献が表示されているが、その一つ一つの原典に当たることは到底不可能。

異論を唱える最大の根拠は、CWCご本家のHPで同社設立の経緯を謳っており、その中でCWC設立とCWCの命名の経緯が詳細に説明されている。そこでは『コンコルド』の名称は一切登場せず、その代わりに中世の冒険者・航海者であるJohn Cabotに因んで社名のCWCを命名したと説明されているのだ。

これ以上に決定的な証左は無い、と言うのが論拠である。
CWC設立者のRay Mellorは、クォーツショックで雲散霧消しつつあった当時の時計業界を自らの手で再建・起業する決意を胸に、彼の命運をかつての探検家の英雄であるJohn Cabotに重ね合わせたことは疑いがない。つまりCWC設立の時系列的な背景を追ってもCWC=Cabot Watch Company以外は有り得ない。

***

CWCは1981年に社名を現在のCabot Watch Companyに変更した。
その後、1990年にロンドンの軍用物資供給会社であるSilvermansがCWCを『買収』したのだが、奇しくもこの年に上述『軍用時計物語』が初版発行されている。
以前よりCWCと蜜月関係にあったSilvermansを今井翁はコンコルドと誤認したのだろうか。何の根拠を以て『コンコルド』の名称を用いたのか疑問が深まる。

***

CWCの創立者であるRay Mellorは、買収後のCWCでも役員として2012年に引退するまでCWCの成長に貢献したのである。CWCの誕生には、クォーツ時計の出現が背景としてあるのだが、その詳細は続編で述べたい。

(2023/6/21公開)2754
※本ブログは2018年6月にWebChronosに掲載した内容を再編集したものです。

ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2023年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

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2 Comments

  1. 鈴木隆浩

    軍用時計は、男心をくすぐるアイテムだと思います。
    私もポパイやブルータスで育ったので、過去にはいくつかの軍用時計を持っていました。
    軍用時計、いいですよねぇ〜。

    1. ゼンマイオヤジ

      ミリタリーデザインは時計以外の様々な分野でも開花していますが共通するのは削ぎ落された機能美。ライカでも”Reporter”が最たる例ですが無骨なまでの美しさには永遠に魅了され続けています。

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