「LUCYの国で、時間に触れる~アディスアベバへの旅」
飛行機の中でたまたま観た映画がある。リュック・ベッソン監督の『LUCY』だ。
2014年に公開された、フランスとアメリカの合作アクション映画。
「ルーシー役」のスカーレット・ヨハンソンが演じる主人公は、あるきっかけから脳の100%を覚醒させていく。
物語の後半、彼女は時間の起源と人類の記憶そのものに触れようとし、ついにはある“存在”と対面する。それが、元祖「LUCY」だった。
318万年前の化石人類、アウストラロピテクス・アファレンシス。
人類の最初の足音のひとつ。
「LUCYって、実在するのか?」
そう思って調べてみると、存在していた。
そして彼女は、いまでもエチオピアにいる。
そういう流れで、ぼくはアディスアベバへ飛んだ。
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【エチオピア国立博物館は、市内のやや静かな一角にあった】
外観は控えめで、入口も驚くほどあっさりしている。
けれど中に入ると、人類の時間そのものが静かに重なり合っていた。
展示室のひとつ、地下の特別コーナーに、「ルーシー」はいた。
驚くほど小柄で、けれどしっかりとした骨格。肩甲骨や骨盤が、風のように軽やかに並んでいる。ぼくらが今こうして歩いたり考えたりしているすべての始まりに、この小さな存在があったのかもしれない、、、と思うと、不思議な感情が静かに込み上げてきた。
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その展示コーナーの案内板には、見慣れた日本語のロゴがあった。
大手日本企業や東京大学もこのルーシー展示に協賛しているそうだ。
資金的な支援だけでなく、展示の照明、保護ガラス、パネルなどの設計まで日本からの技術が注がれているという。考古学的発見と我が国による外交支援が、こうして交わる場所があるというのは、思っていたよりもずっと感慨深いものとなった。
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「ルーシー」は成人女性と推定される個体で、身長は約105cmほど。
約320〜370万年前に生きていたとされ、人類の二足歩行の初期の証拠として極めて重要と見做されている。
1974年、エチオピアのアファール地方で人類の祖先「アウストラロピテクス・アファレンシス」の骨格が発見されたとき、考古学者たちは大きな興奮のなかで、発掘キャンプでビートルズの曲を流してた。
ちょうどそのとき、スピーカーから流れていたのがこの曲だったという:
♪ Lucy in the Sky with Diamonds
(ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ)
その曲名にちなんで、発掘チームの誰かが「彼女を“ルーシー”と呼ぼう」と提案し、
以後その愛称が定着しているのだ。
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370万年前の人類の祖先に、ビートルズの曲から命名するなんて、想像以上に肩の力が抜けた。
なんともお気楽で人間くさいノリではないか。
考古学っていうと、つい厳かで学術的なイメージになりがちでもあるが、実際の現場では
「音楽かけながら骨掘って、出てきたやつにノリで“ルーシー”って名付けた」
みたいな、ちょっとした冗談混じりの瞬間が、そのまま歴史になったりもする。
そういう偶然と情熱のあいだにある空気感も、ルーシーの魅力のひとつなのかもしれない。
だからルーシーは、“科学のアイコン”であると同時に、“カルチャーのアイコン”でもある。
ぼくらが彼女に親しみを感じるのは、そんなちょっとした遊び心のせいなのかもしれないと思わせてくれた。
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展示品の「ルーシー」は化石レプリカであるが、それでも見る者の心が揺さぶられる。
ルーシーは、約320万年前に生息していたアウストラロピテクス・アファレンシスの化石人骨で、
その発見は人類の進化の歴史を大きく塗り替えるものであった。
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こういう協賛の姿勢には敬意を表したい。
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エチオピアの歴史や文化に関する展示も行っている。
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アディスアベバでは、Sheraton Addis に宿をとった。
名前から想像するよりも、はるかに美しいホテルだった。
丘の中腹に建ち、ベランダからは街全体が一望できる。
夕暮れ時、街の音が少しずつ遠ざかっていくのを見下ろしながら、ぼくはローカルワインのグラスをゆっくり回していた。
ホテルの空気には、どこか中東とアフリカが混ざりあったような静けさがあった。
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【夜はSt. George Beerを飲みながら】
夜は地元のレストランで食事をした。名前は正確には思い出せないけれど、観光客向けというより、地元の人々も多く訪れる場所だった。インジェラの酸味と、豆や肉の香辛料が混ざり合う。音楽が鳴り始めると、素足のダンサーたちが舞台に現れ、手足を高速で震わせながら踊り始めた。
エチオピアの民族ダンスには、不思議な時間軸がある。
リズムは単純なのに、身体の動きがどこか断続的で、未来と過去を同時に踏んでいるような印象を受ける。
地元のSt. George Beerを飲みながら、ぼくはそれをぼんやり眺めていた。
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St.George Beerは100年超の歴史を持つエチオピアを代表するビールだ。
今やアフリカ産ビールも格段の進歩を遂げており評判も上々だ。
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【LUCYに別れを告げた】
旅の終わりに、再び国立博物館に立ち寄った。
ルーシーは、変わらずそこにいた。ガラス越しのその姿は静かで、何かを教えてくれるわけではなかったけれど、彼女の存在があるだけで、ぼくがここにいる理由のひとつになる気がした。
ぼくらの時間は、今もルーシーから続いているのかもしれない。
映画でも、化石でも、夜のビールの泡のなかにさえも、彼女の記憶が宿っているかのように。
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(2025/9/15公開) 128825 ※ブログ内容は適宜、加筆修正しています。
