“ストラップ幅4mm差の美学”

彼は昔からROLEXを愛用している。

何本か持っていることは知っているが、主に使うのはDATEJUSTと呼ばれるシルバーの時計だ。所謂「オヤジ時計」に属するものだが、もう一本のDATEJUST が18Kとコンビでベゼルが回転するモデルだ。サブマリーナや他のモデルも見たこともあるが、常々腕にしているのが2種類のDATEDUST だ。

***

ある時、その理由を彼に聞いたことがある。

「いつもDATEDUST を着けているけど、何か特別の愛着でもあるのかい」

「特に何も考えていないけど自然とこの時計に手がいってしまうんだ。
 何というかもう、肌感覚というのか、していて楽なんだよね。
 結局のところ、腕時計ってやつは自己満足の塊だから、

 ブランドとか目新しさとかではなくて、人に見せるものでもないし、
 時計そのものが、その時計のデザインが好きか嫌いかだと思う。
 なんだろう、戦友っていうのかな。

 長年一緒にいるともう相棒みたいなもので、
 新しい時計への興味は薄れてしまうんだよ。」

「とは言え、時計好きの君のことだからここは譲れない点とは何だろう。」

「強いて言えば軽くて、腕に巻いていて違和感がないっていうか、
 ブレスの駒とか、時計本体の軽さとかが何ら抵抗なく
 ごく自然に身に着けられる点かも知れない。
 大昔に買ったデイトジャストは当初は自分が多少なりとも

 背伸びしていた感覚は確かにあったんだけど、
 いつの間にか今では肩ひじ張らずに自然と選択してしまう。
 そんな時計になったんだよ。
 最近の時計は醜いデザインが多いので全く興味がなくなってしまったよ。」

***

そんな他愛もない会話であったが、確かにDATEDUST は軽い。
昨今の時計が益々肥大化、重量化しているの対して
このDATEDUST は36mm径で小振りだが、今でも存在感はピカイチだ。
DATEDUST の代名詞的存在のジュビリーブレスレットも適度にシャラシャラ感があって
5連の各駒の造形美も完成されている。
しかもこれはROLEXに共通して言えることだと思うのだが、ブレスレットのラグ幅からクラスプ幅までがごく自然に絞り込んであるために、これが装着性を大きく向上させていることに貢献しているのではないかと僕的には考えている。

ブレスレットの駒がストレート幅で均一なモデルが昨今多いが、それはあくまで生産性を上げるための結果であって、嫌な言い方をすれば経費削減の賜物であるとも言えるかもしれない。

彼の話を思い出してみると、なるほど、装着性の良い腕時計はブレスレットであれレザーベルトであれ、ラグ幅から剣先にかけて絞り込んでいるモデルが圧倒的に多い。
今回はそんな「絞り込み」について考察してみる。

.

ブレスの絞り込みが20-16mmの【4mm】のDATEDUST 。
1988年に登場したCAL.3135を内蔵する第5世代のDateJustであり、
回転ベゼルを備えた通称サンダーバード「黒金サンダーバード」。
恐らく、このDateJustはROLEXの中でも販売数量的にも五指に入るベストセラー的存在だろう。

.

コチラも絞り込みが19-15mmの【4mm】のOMEGA Constellation。
リアルクロコダイルの剣先は可也り細く見えるが
この4mm差と言うのが装着性は勿論、見た目も上品で実に美しい。

Gerald GentaデザインによるCラインの輝きは今でも失せない。

.

今年で生誕65周年を迎えたGrand Seiko初号機。
ラグ周りがぽってりとした感じが否めないがGrand Seikoの源流たる金字塔的存在だ。

リアルクロコベルト幅は18-14mmの【4mm差】である。
美錠は勿論純正品の14mm幅だ。

.

意外に思えるかも知れないがPANERAI BLACK-SEALも26-22mmの【4mm差】だ。
ここまで幅広であるが故の4mm差で無理なく「デカ厚」を心地良い時計に大化けさせている。

正にデザイナーの見識と良心を感じさせる点でもある。

.

革ベルト形状が独特のPILOT WATCHだがこれも26-22mmの【4mm差】である。
ケース径は42mm、手巻き式の竜頭も巨大だが装着性はピカイチ。
IWC46mm径のBIG PILOT WATCHをも連想させる古式な佇まいと存在感を漂わせている。

.

SINN356は手巻式で20-18mmの【2mm差】であるが、
2mm絞り込みでもストレート幅とは段違いの快適さをもたらしてくれる。

.

“Franck Muller Limited2000”
16-15mmの【1mm差】ではあるが、それでも1mmの絞り込みを持たせている。
元々が16mmという稀有な細さなのでストレート幅でも問題ないのだが、
そこに1mmという「魔法のふりかけ」を処方しているところがフランクらしい。
16mm幅はケース自体が#2851を採用したことによる「必然の結果」ではあるが、
男女問わず手首に優しい点が心憎いではないか。

.

 “Glashütte Original/グラスヒュッテ・オリジナル パノリザーブ初号機”
サードパーティー製の9連ブレスはストレートに見えるが
実はこれも19-18mmの【1mm差】となっている。
9連ブレスというドレス時計としての文句ない構造とバランス感をもたらすが、
更に1mm差を加えることでこれもLimited2000同様に感涙のデザインバランスを堪能させてくれる。

.

番外編のBELL&ROSSは32(24)-24mmの【8mm差】だ。
ラグ幅内径は24mmだが革ベルト装着後はラグ外径32mmに合わせている稀有な形状だ。
そこから美錠幅24mmまで絞り込むという「離れ業」を展開するのが

BELL&ROSSの真骨頂だと言えるだろう。
超幅広の遊革も実に使い易い。

.

ストラップやブレスレットの絞り込みというのは一見地味で気が付きにくい要素ではあるが、一度この点に着目すると装着性が劇的に改善することもある。
野球で例えれば落差と急速差の大きなフォークボール。
左右への曲がりが大きいスライダー。
縦落差の大きなカーブボール。
そんな味わいに近いのがストラップ幅の差の美学だと思っている。
自分好みの「絞り込み差」を見つけることで従来の時計が別物のようにしっくりとくることもあるので興味があればそんな考察をすることも一興となるだろう。

.

.

(2025/4/5公開) 94000    ※ブログ内容は適宜、加筆修正しています。

ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2024年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

おすすめの関連記事