【チャイナタウンは『クリーニングタウン』から始まった】
「チャイナタウン」と言えばロマン・ポランスキー監督の傑作サスペンス映画『Chinatown』(1974)を真っ先に連想するのだが、ロンドンのチャイナタウンにはそんな殺伐とした光景は今はない。しかし、自分にとっては1937年のLAのChinatownを舞台にしたこの映画の印象が強烈すぎるくらいチャイナタンのイメージを決定づけたと言っても良いだろう。50年前のJ.ニコルソンの初々しい名演技も見どころだ。
今からでも遅くはない。まだ見ていない人にこそ是非おススメする名作である。
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チャイナタウンが世界中で何カ所にあるのか分からないが、主要国には必ずあると言っても過言ではない。このロンドンにも欧州で最大のチャイナタウンがSOHO地区に存在する。
英国と中国・香港との歴史的な背景もあり、ロンドンのチャイナタウンは中国からの移民が中心となって18世紀後半にそのルーツを遡る。ご存知の通り大英帝国による植民地主義の原動力として東インド会社が積極的に極東地域との貿易を開拓・独占するにつれて、中国からの移民もアヘン戦争(1842~1860)後に本格的に増加したと言われている。
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元々のチャイナタウンはテムズ川東部のライムハウス地区に集結して出来たのだが、当時は中華料理ではなく「クリーニング店」で活況を呈していたそうだ。まだ家庭用の自動洗濯機が普及する以前でもあり、大きな資金も不要で開始できるクリーニング業を競って開業した。その後、第二次大戦でロンドンが壊滅的に破壊されてしまいチャイナタウンも消滅する。そして、戦後になってからはまだ土地の値段も低かったSOHOの歓楽地区で再興し、この当時には中華料理も多くの英国人(特に大戦時に出兵した兵士)の間で認知度が広まった背景も追い風となって、中華料理店の需要と開店を後押しした歴史がある。
名探偵ポワロシリーズの第13話「消えた廃坑」(1990年放映)では1930年代のチャイナタウン(=ライムハウス地区)を舞台とした描写があるので興味ある方は当時の退廃と活況が入り交じったチャイナタウンの様子を垣間見ることができるだろう。
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東に進むとこのようなミュージカル劇場で賑わっている。
チャリングクロス・ロード(Charing Cross Rd)とぶつかる一角がチャイナタウンだ。
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【SOHO地区は一大歓楽街でもある】
ピカデリー広場から徒歩圏内で至近なSOHO地区は、今日ではミュージカルや飲食店が並ぶ一大エンターテイメント地区(歓楽街)となっており、その一角を占めるチャイナタウンには100軒以上とも言われる中華料理店がひしめいている。予約なしでも入れるので観光客のみならず、地元ロンドナーにも手ごろな価格も受けて非常に人気がある。100軒もあれば、必ずどこかで食べることが出来る安心感もあるからだ。当たりハズレも比較的に少ない中華料理と言うのは、このチャイナタウンに限らずロンドン市内では一般的に安定した人気を誇っていると言えるだろう。
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個人的な好みとしては地下鉄ベイカーストリート駅近くやクイーンズウエイ駅近辺の中華料理店。毎月一度はロブスターヌードル(=伊勢海老の入った柔らかいシーフード焼きそば)を好んで食べに行ったり、自宅近くの中華料理店からも頻繁にテイアウトしたものだ。
つまり、中華料理と雖も長年ロンドンに住んでいるれば店の善し悪し、味の善し悪しは自ずと分かるのであって、コスパ観点(特にロンドンではこれが重要)も含めた総合力と言う点から言えば香港や台湾などの本場アジアの中華料理店の味には敵わないものの、ロンドン市内では極めて有難い存在、と言うのが至極当然な個人的感想である。
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チャイナタウンには中華料理店のみならず、アジア系食品店やスーパーマーケット、
その他日用品店も多いので、買い出しにやって来る客も少なくない。
夜になると更に喧騒が広がる感じだ。
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余談だがチャイナタウンがあるということは、白菜などの生鮮食料品や各種の調味料も調達できるので、在留邦人にとっては非常に有難い素材の買い出し場所という副次的効果の恩恵をも与かっている訳だ。
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その昔、某国で生きた鶏を料理した経験があるが二度とご免被りたい。
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特にアジア系の野菜類は非常に重宝する。
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日本に戻れば和食はいくらでも食べられる。それでも海外では惹かれてしまう「和食」。
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【チャイナタウンで昼食を】
この日はランチとして、空心菜に似ているが青梗菜(チンゲンサイ)のニンニク炒めと点心、
そして好物のダックヌードル(鴨そば)を選択。
これでビールがあれば個人的には十二分の量と味だ。
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空心菜も美味だが青梗菜の方が柔らかで瑞々しい触感が楽しめる。
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【ロンドンにおける外食は果たして何が美味いのか】
一般的にロンドン市内での外食は値段が高く、味は低いと良く言われる。
経験上、英国料理で美味しい(=有名な)ものと言えば、ローストビーフやフィッシュ&チップスであるが、それらとて味付けや下ごしらえの点からは日本人の味覚とは大きくズレる点が多々ある。
一方で、中華料理やインド料理(バングラデシュ人の経営が圧倒的に多い)、エスニック系の食事であればまず間違いないだろう。いずれにしてもレストランに飛び込みで成功するケースは可也低いので、事前に評判や予算を確認した上で狙いを定めることをお勧めする。
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英国では世界のありとあらゆる料理を堪能できるのは事実だが、それはロンドン等の大都市の一部のレストランに関する話であって、流行り廃りも激しく、常識的な予算で楽しめる料理と言うものは残念ながら多くはないというのが偽らざる感想である。その理由としては幾つかの要因があるが、痩せた国土、郷土料理の少なさ、食文化に対する考え方の違いや食を育むことに対する取り組みの貧困さ等々が挙げられる。興味ある方はちょっと調べてみれば、そこには英国の歴史観や伝統的な思想・文化、そして産業革命による変化、と言った側面が大きく影響していることが分かるだろう。
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余談だが、数十年前のこと。
英国の地方都市で食べ物が口に合わず、栄養失調になった知人がいる。
彼は1年間ホームステイしながら語学留学した訳だが、当時は満足なレストランも無い田舎町で瘦せ細ってしまったのだ。今となっては半分は笑い話であるが、半分は真面目な話であって、特に我々日本人にとっては食文化に乏しい英国の一面を垣間みた正真正銘の実話である。
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(2024/7/12公開) 45140 ※ブログ内容は随時、加筆修正しています。
