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【念願のライスブレスを装着してみた】
以前、「蛇腹党宣言」で紹介したGrand Seiko130周年の初号機復刻モデルですが、このほど蛇腹から「脱皮」して7連ライスブレスに換装しました。古風な復刻GS初号機にはコレがドンピシャで似合います。今やライスブレスのリプレス用新品は「私的・絶滅危惧種」に指定していますが、手頃な価格で、それもバックルがプッシュ式のシングルバックル方式を採用しているモデルはこれ以外に知りません。
京都のKUOE(クオ)は2020年に創業されたジャパニースブランドですが、その意気込みは『クラシックウォッチの魅力を京都から世界へ』とのコンセプトに基づきます。そのKUOEが作った18mmラグ幅のライスブレスがコスパ含めて出来栄えが高得点です。
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【裏蓋スケルトン化に続く大規模意匠変更】
Cal.註19S54の進化版である三日巻きのCal.9S64を搭載したしたこの「GS130周年モデル」はオリジナルでは裏蓋closedでした。しかし、美麗なCal.9S64を見ないで済まされる訳がありません。最新のヒゲぜんまいとMEMS註2(メムス)製法による脱進機(アンクル、ガンギ車)を採用することで、実用精度の安定性を向上させたのが9S64です。よって、裏蓋をスケルトン化することでMEMS製法の脱進機を覗けることは好事家にとっては何よりの楽しみとなる訳です。逆に言えばスケルトン以外の選択肢は個人的には存在しない訳なので、以前、時計好き界隈では超有名な山口県の某工房で裏蓋スケルトン加工をお願いしました。それ以来の大きな意匠変更となったのが今回のライスブレス装着であります。GS獅子マーク付きの純正裏蓋には手を触れず、スケルトン裏蓋を別途新たに作成頂いたことは勿論です。
註1:Cal.とはCaliber(キャリバー)の略で、時計用語でムーブメントの型番のこと。
註2:Micro Electro Mechanical Systems(微小電気機械システム)の略
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【ライスブレスの確たる誕生年は定かではないが】
ライスブレスとは文字通り、中央の5連部分が「米粒」の形状に似ていることからそう呼ばれています。コメが主食の日本人が命名したニックネームだと嬉しいですが、出所は不明です。1950年代から60年代に誕生し、70年代には世界中で人気のピークに達したクラシカルなブレスレットです。当時は名だたる一流ブランドに採用されましたが、今日ではあまり人気がないらしい。まぁ、見た目がオヤジ臭いと言えば否定はしませんけど、これはこれで気品あるブレスデザインだと思っています。最近ではLongines の新作レジェンドダイバー(=1959年復刻モデル)でも採用されましたが、その素性は「復刻モデル」であるが故のクラシカルブレスの採用ですね。これも温故知新の表現手法であります。
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ブレスの両側の駒はつや消し、ライス部分の中5連駒が光沢処理されています。腕の動きで光の反射が生まれ、質素なGSのフェイスと溶け合うことで独特の渋い色気を醸し出す点は所有者のみが味わえる特権です。加えて、これが重要ですがラグ側18mm幅でクラスプ側16mmに絞り込んであること。コスト削減でストレート幅のブレスが多い中、この2mmの絞り込みがあると装着性が格段にUPします。加えてライスブレスに気品さえも醸し出します。ROLEXなんかは流石にこの辺を理解していますね。こういうのはブログだから書けることであって、人前でベラベラと喋ることは無粋の極みでしょう。
兎にも角にも、この7連ライスブレスを装着することで、GS130周年復刻モデルのデザインが発売後12年後にしてようやく自分なりの姿に完成されました。
見た目、フツーのビジネス用時計に見えますが、歴史のエッセンスが込められたデザインでありSEIKO時計デザインの一つの完成形とも言えるでしょう。
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尚、似たような現行品では最初からシースルーバックのSBGW305があるので興味ある方は調べて下さい。但し、GS初号機復刻モデルではないので悪しからず。
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【日差±10秒以内なら「狂わない時計」と同列だ】
持論ですが、
①機械式時計は「スイスレバー脱進機」(クラブトゥース脱進機)が完成形であって、メンテ観点からはCO-AXIAL含めた改良脱進機や複雑機構は無用の長物であり、
②日差10秒以内の機械式時計であれば「デジタル同等」の「日常的絶対精度」を誇る高精度時計、と見做しています。
更に欲張れば「黒金モデル」(=ケースが金色、文字盤が黒色)を「極上時計」として崇めている筆者ですが、それはさておき、この「GS130周年」モデルは白文字盤ながらもややクリーム色かシルバー色っぽい雰囲気も醸し出しており、その文字盤上で回転する青焼き秒針註3がこの上ない品格を漂わせています。自他共に認める「黒金オヤジ」ではあるものの、こうした意匠を見せつけられたら降参せずにはいられません。加えて、今回のライスブレス装着により「GS130周年」は「私的・雲上時計かつ万能の地位」を確固たるものにしたのであります。
註3:元々は針やネジの酸化・劣化を防ぐための加工であるが、その青色の美しさから主に高級時計で使われる手法。300℃程度に熱することで適度な酸化被膜と美しい青色が現れるが、その温度管理が非常に難しい為に歩留まりが課題。安価な時計では単に青塗装することが多いが、近年では特殊な薬品を使って酸化させることで焼き入れに近い色合いを表現することも可能になっている。
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この世に生を受け、秩序と道徳と海洋で守られた日本で育ち、こうした国産時計に巡りあえた幸運には只々感謝するしかありません。謙虚な気持ちを忘れずに、この新しいライスブレスと共に2024年の毎日も『セイコ~でスタート♪』と参りましょう。
因みに民放初のテレビCMは1953年(昭和28年)、「精工舎の時計が正午をお知らせします」という服部時計店(現:セイコーホールディングス株式会社)の時報でした。
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“Rice bracelet matters.”
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(2024/2/09公開) 23100 ※ブログ内容は適宜、加筆・修正しています。