【丸眼鏡の歴史と蘊蓄を少し述べてみる】
13世紀のヴェネチア。
海の匂いと商人たちの喧騒の中で、初めて二枚のレンズを枠に収めた奇妙な道具が生まれた。これが眼鏡の始まりだ。便利なのか厄介なのか、当時の人々もきっと迷っただろう。
それから三百年後、戦国時代の日本に、あのフランシスコ・ザビエルが十字架とともにそれを持ち込む。日本の武将たちは、異国の宗教よりも、この小さな透明な円盤に興味を示したのかもしれない。
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【デザインの変遷】
最初の眼鏡は、手に持って覗く道具だった。ちょっとした虫眼鏡と同じだ。
やがて西欧では「鼻眼鏡」と呼ばれる、鼻の上でバランスを取る不安定なスタイルが長く続く。便利さよりも見栄え、いや、虚栄の方が大事だった時代だろう。18世紀後半になって、やっと紐で顔に固定する発想が生まれる。これで両手が自由になった。ようやく眼鏡は「生活」に降りてきたのだ。
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【1920年代の丸眼鏡ブーム】
そして1920年代、丸眼鏡はひとつの事件を起こす。
米国の喜劇役者「ハロルド・ロイド」の登場だ。
映画の中の彼が掛けたラウンド型は、知性と少しのとぼけた味を同居させ、街は丸眼鏡だらけになった。大衆文化と工業化が、クラシックな円形を一瞬で大衆の制服に変えてしまったのだ。
彼の名前と眼鏡の素材が「セルロイド」であったことからも「ロイド眼鏡」という世界現象への導火線に火がともされた訳だ。因みに、ロイドが使った眼鏡のレンズは素通しのガラス製だったとの逸話もあるが、当時のレンズ製造技術面からも丸型がレンズ加工と研磨の観点から一番の基本形であり、そのレンズの丸型形状にフレームを合わせたというのが実情であったと思われる。
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【デザインの百花繚乱と素材革命による新眼鏡時代の幕開けへ】
その後、戦後の混乱を経て、FOX、ウェリントン、ボストン、サーモント型等次々と登場する。
これはデザインの革命というより、素材の革命だった。セルロイドからアセテートへ。
石油化学工業が形状と色彩の自由度を眼鏡に与え、1950〜60年代、街の顔は一気にカラフルになった。
けれど、そんな中でも、丸眼鏡はずっと片隅に生き延びてきた。少し時代遅れで、時に滑稽で、しかしいつも静かな重力を持っている。似合う似合わない、好きか嫌いかは年齢などとは関係なく、あくまで個人の主観の問題だ。しかし、丸眼鏡は上述の通り、伝統的で可成り個性的な部類に属するデザインであるので、万人受けとは対極に位置する存在かも知れない。
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ブランド名のpLAtOy(プラトイ)は、子供が初めてオモチャを買ってもらった感動を表現し、
「Play,Plastic Toy」から出来た造語だそうだ。
左は変形ウェリントンとFOXの特徴が混ざり合ったようなデザインの「GLAMOUR」。
右は丸眼鏡とボストンが連携したようなモデルの「Tea」。
まるで「仮面舞踏会」でかける眼鏡のようだが、愛用する2本である。
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【丸眼鏡には厳密に言えば2種類ある】
丸眼鏡のレンズには「真円」と「疑似真円」形状の2種類がある。
人間は円を見ると縦長に感じる錯視があるため、縦を少し短くすることで、実際に掛けた時にまん丸に見えるよう調整されているそうだ。つまり、多くの丸眼鏡は、厳密には真円ではなく、少し横長の楕円形(疑似真円)で作られている。
そうすることで、真円に比べてクラシックになりすぎず、現代のファッションに馴染みやすいという利点がある。近年ではボストン型とウェリントン型の中間を「ボスリントン」と称されるように、丸眼鏡にも「真円」と「疑似真円」があるということだ。そう考えると、僕が所有している丸眼鏡は殆どが「疑似真円型」と言えるだろう。
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丸眼鏡というやつは不思議だ。
流行の表舞台に立つこともあれば、何十年も裏通りで埃をかぶっていることもある。それでも、気がつけばまたこちらの目元に戻ってくる。まるで、古い友人が不意に訪ねてきたように。
そして今、僕の机の引き出しには、そんな旧友が6本、静かに並んでいる。
形も色も素材も、どれひとつとして同じではない。けれど、かけてみれば、どれも同じように視界を少し丸く、そして少しだけ優しくしてくれる。その日の気分や服装、靴との色合いやバランスを考えつつ、好みの眼鏡を選ぶ楽しさ。腕時計や靴とも共通する数少ないアクセサリーに一つとして、僕にとっての眼鏡の存在は大きい。コンタクトレンズは便利だが敬遠している。やはり眼鏡という「モノとデザインとファッション」への執着が勝るからだろう。
ここからは、その丸眼鏡達を紹介してみる。
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PlaToYの「tea」は今や絶滅危惧種の素材となった太枠のセルロイド製。
その右は以前にも紹介した「ボストンクラブ」の鯖江製の「Charlie(チャーリー)」だ。
オリジナルは固定式の鼻パッドだが、可動式のクリングスタイプに改造した。
下段右側はJINSのクラシックモデル。下段左はJINS/R!Mによるアセテート製の太枠虎班モデルだ。
ド迫力のデザインが故に気分も高揚する為、周囲の視線を敢えて意識しつつ楽しんでいる。
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こうして見ると3本ともレンズがやや横長となっていることが分かるだろう。
JINSは眼鏡をユニクロに変えてしまったが、カラバリとデザインの豊富さが最大の魅力だろう。
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左右のテンプルもストレートタイプに近く、シンプルが故に装着感も快適な一本。
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(過去の眼鏡関連ブログ)
・「あの日、あの時に買った相棒の眼鏡達」はコチラ。
・「18年後に鯖江で蘇ったパリミキのメガネ」はコチラ。
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(2026/2/25公開) 189000 ※ブログ内容は適宜、加筆修正しています。
