“晩秋の倉敷美観地区でフォトウォーク”(後編)

【旅の始点としての倉敷駅】

倉敷駅に降りた瞬間、旅の輪郭が静かに浮かび上がった。
駅舎の壁には、もう「倉敷」があった。
ひし形に連なる「四半張り」のなまこ壁の薄汚れた白さが、
朝の光を受けてゆっくりと目にしみ込んでくる。

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手にはFUJIFILM X-Pro3と、小さなLUMIX GM-1。
ライカ単焦点の15mmF1.7を装着したGM-1は、まるで「ライカQ」を小型にしたかのようだ。
見て良し、触れて良し、撮って良しの「三方良し」で、旅のための最小限で十分だった。

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【晩秋の相棒達】Camera: Fujifilm X-Pro3, LUMIX GM-1
Neck strap: Paracode by Moca_r7, Hakuba strap
Watch: TIMEX Q80 Continental
Hat(Fedora): Major Hat/England
Glove: DENTS Cashmere-Lined Peccary

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【歩道に潜む倉敷の記号】

駅から美観地区までの15分。
歩道に描かれた市の花である「ふじ」のデザインのマンホールが、僕の歩幅に合わせて現れては消える。赤い消防車の消火栓のイラストも、ただの道を少しだけ物語にしてくれた。
他に「日本遺産マンホール」もあったりして、そんな発見も楽しそうだ。
この街は、足もとにも優しい。

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【晩秋の色が街を満たす】

美観地区に近づくにつれ、晩秋が深くなる。
11月の終わり、紅葉は最後の色を絞り出し、倉敷川はその色を映し込んでいた。
三羽の白鳥が、季節の余白をすべるように進んでいく。

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Film Simulation: Classic Negative

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【漆喰がつくる立体の風景】

馬張り、四半張りのなまこ壁の前で足が止まる。
漆喰がこんなにも立体だったことを、近づかなければ知らなかった。
光があれば浮かび、陰があれば沈む。触れなくても手触りだけが伝わってくる。
倉敷の白は、見る角度によって温度が変わるのだ。
壁は平面のまま、静かに彫刻をしていた。

レンガ風の馬張り

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四半張り

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旧大原家の別邸「有隣荘」。
平瓦と筒状の丸瓦が組み合わされて屋根が葺かれた「本瓦葺き」も町並みに重厚さを加えている。

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【屋上から眺めた整った街の骨格】

「林源十郎商店」の屋上に立つと、倉敷が別の顔を見せてくれた。
白いなまこ壁の建物が点と線になり、屋根の起伏が時間を語る。
屋根の影が午後の光に溶けていく。
古さは美しさの重さであり、重さは風景の確かさだった。
その均整の良さに、僕はレンズを向けるのを忘れるほど見入ってしまった。

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無意識に撮影した光景が、この後に見つけたポスターと全く同じで驚いた。

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2024年3月にリニューアルオープンされた木造3階建て本館屋上からの美観地区の眺望は
「地域と暮らしの豊かさ」の象徴だ。

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美観地区内のほとんどの建物が2階建てで、2階部分は低く建てられている。
明治以前までは旅館や料理屋のほかは、2階に居住することは許可が出なかった。

倉敷美観地区の町家は、2階が低く控えめに造られている。
多くの城下町・宿場町でも共通して確認されているが、江戸時代は身分秩序が厳格で、
町人が武家屋敷や役所より高い位置に立つことを避けるためであった。
特に倉敷では2階は生活よりも商品保管を優先する「半蔵」のような使われ方 をしていたのだ。
旅館や料亭など一部例外もあるが、2階に人が住むことは原則として認められず、
「見下ろさない、主張しない、商いに徹する」という町家の思想が静かに息づいている。

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【季節の境界線としてのアイビースクエア】

アイビースクエアでは、赤い葉が風に揺れ、
その奥にクリスマスツリーが静かに立っていた。
秋と冬が同じ敷地の中で淡く重なり、どちらも主張しすぎない。
季節の終わりと年の暮れが一枚のフレームに収まると、
僕の中の時間もまた、区切りを求めて動き出すようだった。

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逆光フレアとフジノンレンズコーティングのせめぎ合いが好きだ。

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【水と車輪、ふたつのリズム】

倉敷川では観光舟がゆっくりと水を押しひらき、
道の向こうでは人力車が軽やかに通り過ぎる。
水の速度と車輪の速度はまったく違うが、同じ午後の中でひとつの静けさを共有していた。
旅は、異なるリズムが出会う場所で深くなる。

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FUJIFILM X-Pro3 + XF16mm f/5.6 SS1/200 ISO320 Provia

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FUJIFILM X-Pro3 + XF16mm f/5.6 SS1/200 ISO320 Provia

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【藍の記憶が息づくデニムストリート】

「デニムストリート」に入ると、藍の匂いがどこかに漂っていた。
デニムはアメリカの砂埃から始まり、この街では機織りの音とともに育った。
一本の縫い目に、国も時代も静かに縫い込まれている。
藍は退色しても、記憶は写真と共に退色しないという事実を、静かに教えてくれる。

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FUJIFILM X-Pro3 + XF16mm f/5.6 SS1/200 ISO320 Provia

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【いちばん古い記憶へ戻る道】

歩き続けて、ふっと原点を思い出す。
大原美術館の白壁と、その前を渡る今橋。
50年前の僕が、写真の中で笑っていた場所だ。
写真の中にしかいなかった17歳の僕が、そこに立っていた。
その場所をいま歩き直すことで、時間は過去と現在をつなぎ直してくれた。

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今橋の後方左が「旧大原住宅」、右の黄色い瓦葺き屋根が「有隣荘」でこちらも旧大原家の別邸だ。

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【旅の終わりは、光が教えてくれる】

晩秋の倉敷は、過去と現在を分け隔てなく受け入れてくれた。
撮った写真よりも、歩いた時間のほうがはるかに鮮明だ。
そう思いながら、僕はカメラをしまい、
夕暮れの美観地区をあとにした。

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2026年2月9日から4月24日の75日間、大原美術館は改修工事のため全館休館となる機会に
同時期の特別展「名画への旅 ― 虎次郎の夢」は香雪美術館(大阪)で2026年1月3日〜3月29日に開催される。

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前編はコチラ

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人の記憶は必ず薄れる。
薄れた記憶は写真が救う。
カメラは記憶のタイムマシン。

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(2025/12/14公開)161616   ※ブログ内容は適宜、加筆修正しています。

ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2024年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

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2 Comments

  1. 鈴木隆浩

    倉敷、素敵なところですね。
    マンホールと一緒に写ってる靴がかわいくて、いいなって思いました?
    デニムもほしいです。

    1. ゼンマイオヤジ

      倉敷は美観地区を中心にのんびりと散策が出来るので、撮影も観光も買い物も食事も、
      どれも人気があることが良く分かりました。特に春秋にはお薦めの場所ですね。

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