“漆黒の木曽川で幻想的な鵜飼漁法を堪能する”

【名鉄犬山庭園駅に到着。乗船前に鵜匠の説明を受ける】

名古屋駅から名鉄犬山線に乗り、木曽川沿いの駅に降り立つ。犬山城へのゲートウェイでもある犬山遊園駅に足を下ろすと、川の匂いがすぐそこにある。毎年六月から十月の期間限定で催される念願の鵜飼を、この夜は見ることができるのだ。期待に胸を膨らませながら川辺へと歩く。乗船客は陽が沈みきる前に集合し、古式ゆかしい独特の装束につつまれた鵜匠の説明を聞く。鵜飼の歴史、そして観覧の心得。鵜に無闇に声をかけぬこと。船上で立ち上がらぬこと。言葉は短く簡潔で、時に笑いも誘いつつ、要点はしっかりと伝えられる。古い行事だが堅苦しさは一切ない。耳に入った内容は、すでに身体の奥に沈んでいく。やがて闇は濃さを増し、木曽川の水面はゆるやかに黒へと変わってゆく。

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鵜匠の船は鵜舟といい、全長約12メートルある。
木曽川鵜匠は4名体制で、2013年には東海地方の鵜匠として初めて女性もデビューしている。

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(参考) 過去には鵜飼をモチーフとしてこのような郵便切手も発行されている。
    左側: 100円の普通切手(1953年9月15日発行)
    右側: ふるさと記念切手。岐阜県長良川の鵜飼いと岐阜城(2003年5月1日発行)
岐阜県長良川の鵜匠は皇室に鮎を献上する「御料鵜飼」を行う特別な職務を担っている。この為、「宮内庁式部職鵜匠(くないちょうしきぶしょくうしょう)」という肩書を持ち、宮内庁に所属する国家公務員としてその職務を世襲制で継承しているそうだ。

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【千三百年の伝統漁法に触れる興奮】

鵜飼は千年を超える歴史を持つ。
奈良時代の文献にも記録があるという。その起源は漁としての漁法であり、また祭事であり儀式でもあった。時の権力者に献上される鮎を捕らえるために、鵜は働き、鵜匠は技を磨いた。用いられる鵜は体が大きく丈夫で、狩りの能力に優れたウミウ(海鵜)という種類だ。体重は2~3kgとなり、翼を広げると約150センチにもなる。アヒルやペンギンよりも水かきが1枚多く、泳ぐことが上手である。

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長良川、宇治川、そして木曽川。川の名と共に、この国の川の文化として残されてきた。松明の炎とともに浮かび上がるその姿は、観光に転じてもなお、単なる見世物ではない。川に息づくものとして、古来から変わらぬ律動を持ち続けている。この木曽川鵜飼は1985年に「木曽川犬山鵜飼漁法」として犬山市の指定文化財(無形民俗文化財)となっている。
鵜が潜り、魚を咥え、喉に止める。その一連の流れに、人と鳥の共生の物語が凝縮されている。

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「河渡 長柄川鵜飼 (木曽街道六十九次)」 渓斎英泉作 岐阜県博物館所蔵

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【いざ乗船、暗闇に近づく遠くからの松明】

船に乗り込むと、周囲はすでに闇に包まれていた。
川面は黒く沈み、ただ水音だけが耳に残る。走り出した船は、静かに流れにのり、下流へと進む。遠くに炎が見えた。松明の光を掲げた鵜飼の船が、闇を裂くように近づいてくる。炎は風に揺れ、影を長く川面に落とす。こちらの観覧船は息を潜めて、その光景を待ち受ける。闇と光。沈黙とざわめき。その対比が、見慣れぬ異国のように思える。川の匂いが濃くなり、胸の内で何かが震える。幻想的で神秘的でさえもある世界が広がって行く。

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LUMIX GM-1 + LUMIX G 35-100mm F4.0-5.6 

名鉄犬山線を走行中の車内の光と松明との対比。

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【名鉄の灯と鵜匠の技】

すぐ頭上近くには高架があり、名鉄電車の明かりが走り抜ける。窓の明かりは直線を描き、冷たい白の光が一瞬川面を照らす。その直後に、眼前の松明の炎が強烈に浮かび上がる。炎は赤く、熱を帯び、火花を散らす。川面に落ちる火花は星のように瞬き、すぐに消える。鵜匠の掛け声が飛ぶ。低く短く、鋭い。黒い鵜たちが水に潜り、波紋を広げる。水音が連続し、鳥の影が次々と浮かび上がる。喉に鮎を留め、鵜匠の手綱に導かれて戻る。その動作は流れるようで、一切の乱れがない。数百年の時間が、ひとつの身体を通して現れている。目を逸らすことができない。火と水と影が、ここでだけ成立する幻を作り出していた。

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鵜舟は最大三隻で漁を行い、それぞれ鵜匠と船頭が乗り込む。
鵜匠の船は鵜舟といい、全長約12メートルある。船には鵜匠の他に船の舵をとる
「なか乗り」と「とも乗り」が乗っており、この3人が1組になって魚を捕りながら川を下ってゆく。

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LUMIX GM-1 + LUMIX G 35-100mm F4.0-5.6 

LUMIX GM-1 + LUMIX G 35-100mm F4.0-5.6 

LUMIX GM-1 + LUMIX G 35-100mm F4.0-5.6 
観覧船は、鵜舟のすぐ間際にまで近づき、時にはかがり火の熱気が頬で感じられるほど。
鵜の泳ぐ水しぶきが飛んでくるほど間近まで寄ってきてくれる。

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【鵜匠のファッションに日本の伝統美を垣間見た】

かねてより京都の送り火を見ること、そして鵜飼に立ち会うことは何時か実現したいと願っていた。送り火は既に夏の夜に見届けた。そしてこの夜、鵜飼が実現した。船上で夜風を受けながら、松明の炎に照らされる鵜匠の姿を見る。時間を超えて続いてきた技を、目の前で体験する。感無量という言葉は、凡庸だが正確だ。川を流れる風、炎の匂い、鳥の羽音。すべてが一枚の画のように記憶に沈む。千年の歴史を背にした鵜匠と海鵜を目の当たりにする。少々大袈裟だがまるで日本の古代漁法の生き証人になったような気持ちになる。

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鵜匠の伝統的な衣装は、かがり火から頭髪を守る麻布の帽子、風折烏帽子(かざおりえぼし)。鵜がおびえないように、黒あるいは紺色の木綿の漁服(りょうふく)。火の粉や油よけとしてポケットには修理道具を入れる胸あて。水しぶきで体が冷えるのを防ぐ、ワラで編んだ腰蓑(こしみの)。僕にはこの古式豊かな衣装がパリコレ顔負けの「ファッション」とも映った。自然素材100%によるジャパニーズ・アウトドア・ウェア。その現実の姿は、想像よりもはるかに強烈であった。記録に残る文化を、自分の目で見、自分の耳で聞き、自分の皮膚で感じた。木曽川の夜風は涼しく、炎の匂いがかすかに残っていた。

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LUMIX GM-1 + LUMIX G 35-100mm F4.0-5.6 

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岸辺には鵜飼を眺めつつ散策する観光客の姿も見える。
遠くには暗闇にライトアップされた犬山城。
そして、夜空に浮かび上がるおぼろ月が遠い昔の歴史絵巻を見るようで、
何とも印象的な時間となった。

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人の記憶は必ず薄れる。
薄れる記憶は写真が救う。
カメラは記憶のタイムマシン。

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(2025/10/1公開)134070     ※ブログ内容は適宜、加筆修正しています。

ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2024年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

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