【LOWERCASE NAVAL WATCHに辿り着くまで】
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腕時計を選ぶとき、いつも全体のデザインバランスと色に引き寄せられる。
世間では「ティファニーブルー」と呼ばれる、あの独特の水色。
1996年9月、発売と同時にSWATCHの「Poolside」というクロノグラフを手に入れた。
透明なクリアのケースに、軽やかで清潔なスカイブルーの文字盤。
どこかユーモラスで、どこか切なさを含んでいた。
以来、約30年の間にそんなクリアケースは黄変してしまったが、文字盤の水色は今でも変わらない。しなやかなシリコン製のストラップは加水分解も無く、未だ立派に現役だ。
それはぼくの時間感覚の原点になった。
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近年では”Omega × Swatch MISSION TO URANUS”もいい色を出している。
蛇足だがSwatchとは”Swiss Watch”の意味ではなくて、”Second Watch”(=第二の時計)というのが語源だ。
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この数年、世界的にこのスカイブルーの文字盤がブームになっている。
きっかけのひとつは、雲上時計の「ティファニーブルーノーチラス」やロレックスの「オイスターパーペチュアル」で登場したターコイズブルーの文字盤だろう。通称「ティファニーブルー」。温故知新の色だ。それが瞬く間に世界中で人気を集め、多くのブランドがそれに呼応するように「明るくて澄んだブルー」の文字盤を次々と出すようになった。この色は戦前やアンティークには存在しない。云わば「現代文化と技術革新」が生み出した「新色」ともいえるだろう。
でも、正直に言って、ぼくにはどれも少し眩しすぎた。
あまりに流行すぎてピンキリなモデルが市場に溢れ、そこには個人的な感情が入り込む余地がなかったからだ。
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しかし興味のある色彩には間違いない。
以前に紹介したORISの文字盤も玄人受けする良い色だった。
2021年に発売されたシチズン「TSUYOSA」シリーズでもスカイブルーの文字盤が大人気となったことも世界中で話題となる。更に直近ではぼくも愛用中のハミルトン・カーキ・メカニカルに、スイス・ツェルマット店(Zermatt boutique)のみで限定販売されるアルプスブルー文字盤も登場した。このモデルは久々に垂涎の一本であり、現物を是非見たいと思っているのだが、これからスイスまで出かけるのはちょっと面倒臭いので指をくわえているのみだ。そんなこんなで「Poolside」以来、ぼくの中で再燃してしまったこの色彩に迷いながら、ようやく全体バランスの観点から嗜好に合致したのが今回の「NAVAL WATCH by LOWERCASE」だ。
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【大文字・小文字を英語で何と言うか知っていますか?】
この時計は、クリエイティブディレクター梶原由景(かじわら よしかげ)氏が率いるデザインスタジオ「LOWERCASE(ローワーケース)」がプロデュースしたもの。LOWERCASEは、ファッション・雑貨・時計・ステーショナリーなど幅広いジャンルでコラボレーションを手がけてきたデザイン集団で、ただの“プロデュース”ではなく、ブランドの文脈を読み解き、そのDNAを活かしながら現代的な解釈で再構築することに定評がある。世界的にも絶大なる信者が多い藤原ヒロシ氏が主宰するデザイン集団「フラグメント(fragment design)」にも共通する立ち位置だと理解している。
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このNAVAL WATCHは、その名のとおり、かつて英国海軍などに支給されたミリタリーウォッチにインスパイアされている。
ケース径は39mmで許容範囲内。文字盤にはミリタリー支給品の証しである矢羽根マーク(ブロードアロー)が刻まれ、機能性と意味性が共存している。風防はドーム型のアクリルレンズを採用し、日付部分には視認性を高めるサイクロップレンズを搭載している点もツボを押さえている。LumiNova®蓄光塗料を採用したINDEX形状やラジオミール(PANERAI)と同じデザインのペンシル針も本格的だ。ムーブメントはCal.4R35とほぼ同等で信頼性の高い日本製(SII製)自動巻きCal.NH35Aを搭載し、凡庸ながらも41時間のパワーリザーブと5気圧の防水性能を備えている。地板やプレートはペルラージュやジュネーブストライプ等は望むべくもなく、そっけない筋目加工処理としていることはSEIK5などと同じだ。
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実用として十分なスペックを持ちながら、過剰な主張がなく、控えめで落ち着いたたたずまい。加えてSS製ブレスレットを含めても124グラムという理想的な重量配分。近年、150グラム超の鉄アレイのような重量級の腕時計が多い中、ROLEX のDateJustを彷彿とさせる全体バランス感には安堵させられる。
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【原点はSWATCHのスカイブルー文字盤だった】
でも、何よりもこの時計に惹かれたのは、その水色(ターコイズブルー)だった。
明るすぎず、沈みすぎず。
かつてのSwatch/Poolsideのスカイブルーが、歳月を経て成熟したような、少しだけ影のある青。
それは「記憶としての色」だ。流行でも、機能でもなく、時間を内包した色。
たしかに、ブロードアローやミリタリー由来の背景は男心をくすぐるし、LOWERCASEが手を加えたデザインは「考え抜かれたシンプルさ」に満ちている。
けれど最終的にぼくを動かしたのは、スペックでも歴史でもない。
この文字盤の水色が、あの30年前のスウォッチと静かに会話していたからだ。
色には、そういう力がある。
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SWATCHとNAVAL WATCH。机の上で2本の時計を並べてみる。
ひとつは、かつての軽やかさ。もうひとつは、それを思い出にした現在のかたち。
ふたつの水色のあいだにあるもの。それは、たぶんぼくの人生の時間そのものだ。
時計は、時を刻むための計器だけれど、ときにその針の下に、自分の過去と現在を同時に置くことができる。
LOWERCASEのブロードアローは、それを静かに教えてくれるような気がする。
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(2025/7/26公開)114872 ※ブログ内容は適宜、加筆修正しています。
