京浜東北線の車両が焦げ茶色で床が油臭い木製の板張りで出来ていた頃から、
丸くて長い「ストリップポール」のような鉄製の握り棒が
車内の床から天井に生えていた頃から、
有人改札で厚紙の切符に検札鋏を入れる為に毎朝黒山の人だかりだった頃から、
ずっと見て来た王子駅なので本のタイトルに惹かれてしまった。

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世評とは違って小説の内容は期待には叶わなかったけど、
自分なりの記憶と妄想とフラッシュバックが膨らんで、
結果的にはそっちの方で楽しむことが出来たような。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

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王子駅のプラットフォームから見える景色も何時の間にやら高架や看板で遮られてしまい、
赤茶色の錆がかつてないほどの色濃さと広がりを見せている。
隙間から見える大きな歩道橋は老体ながらも未だ現役で活躍中だ。
その「骨密度」は大丈夫なのだろうか、と、お節介にもあらぬ心配をしてしまう。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

飛鳥山の坂を上り下りする都電は今も昔も変わらない。
多分、あの坂道は都電の登坂能力の限界値ではないかと今でも思っている。
その横では「アスカルゴ」という庶民的なニックネームを持つモノレールが
ゆっくりと昇降している。
倍賞千恵子さんが車内アナウンスをしているそうなので、一度は乗りたいと思っているのだが、
僕にはあの「カタツムリ速度」がどうしても抵抗がある。
だから、ニックネーム自体も正直のところ苦手だ。

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以前は「都電王子駅」のすぐ近くに凄くさびれた「紙の博物館」があったのだが、
何時の間にやら今は飛鳥山公園内に移転しているらしい。
折を見て訪問しようと思っている。
僕の子供時代、飛鳥山の中央には野球のグラウンドがあったことを知る人も今では少ない。
都電が走る道路側には高いネットがあったとはいえ、
いつボールが道路へ飛び出しやしないか、と、
毎回、ヒヤヒヤしながら眺めていた記憶が今でも鮮明だ。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

北口改札は自動化されてはいるが、この場所も改札の設置角度も今も昔も変わらない。
有人改札の時代には駅員さんが厚紙でできた切符に検札挟を入れる
パチパチとしたリズミカルで小気味よい音と、
黒山の人だかりを手際よく検札挟で捌いて行く仕草にいつも感心したものだ。
まるで砂時計のように人々がスムースに改札を通っていた光景が懐かしい。
当時は改札で行列などなかったのだが、大勢の人々は混乱もなく、
阿吽の呼吸で、丸で吸い込まれるように改札を流れていった。

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今では地下鉄南北線もあるのだが、JR 王子駅とは直結していないので、
一度地上に出ることになる。
JRと地下鉄と都電はそれぞれ独立した建造物として「王子駅」を名乗っている訳だ。
地下鉄南北線の開通は王子駅の利便性を一気に高めたのではなかろうか。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

早稲田行きの都電ホーム上にも専用の屋根があるのだが、こうして眺めると新幹線の高架も
二重の屋根の役割を果たしている様子が伺える。早稲田方面行きの都電は西ヶ原に東京外国語大学と女子高があった為に、特に女子高生徒で毎朝、超満員であった。
その東外大も2000年には府中キャンパス移転してしまったのだが、
時代の流れとは言え少々寂しい。憧れた東外大だっただけに余計に寂しすぎる。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

まだ僕が小学校の低学年の頃だったと記憶する。
毎年2月の「初午」の賑わいを見せる王子稲荷近辺にある「石鍋商店」で、
名物の「久寿餅」を買いにお使いで500円を握りしめて一人で家を出た。
お祭りで屋台や出店も多い中、何故か王子稲荷の境内で射的や輪投げの店に立ち寄ってしまい、握りしめた500円を全部使ってしまった。
結局、お使いの「使命」を果たせずに、子供心にも罪悪感を抱きつつ、落ち込んで家に帰ったところ、誰からもしかられることもなく済んだのは母親の優しさだったのではなかろうかと、今では蜃気楼のように美化されて、ほろ苦い思い出として残っている。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

どうして王子駅前にはこんなにも多くの銀行があるのだろうと、昔は子供心にも不思議に思ったものだが、今ではその疑問にも答えられそうな気がする。
一部、銀行の名前も変わってしまったのが、これまた時代を感じさせる訳だけれど。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

王子駅そばに「北とぴあ」という複合文化ビルが建っているが、昔はここに「旧国鉄」の貨物専用の操作場があった。今では考えられないことだが、夕方になり貨物ターミナルが静かになるのを待ってから、この場所でキャッチボールをしたりして遊ぶ貴重な「広場」に「変貌」したものだ。ゆるゆるの昭和の時代の産物であったが、そんなゆとりのあった空間が「北とぴあ」を見る度にフラッシュバックしてしまう。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR
「北とぴあ」17階の展望ロビーから見た夕陽の中の富士山。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR
古来、浮世絵にも登場する桜の名所であり、紅葉も美しい飛鳥山公園を眺める。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR
いよいよ7月3日に新一万円札が登場する。

「王子製紙」を含む近代日本経済の背骨を成す数多くの重要な事業会社設立に尽力した渋沢栄一は、飛鳥山をこよなく愛してそこに居を構えた。今では「旧渋沢庭園」として保存され、飛鳥山内にある「3つの博物館」の一つが「渋沢資料館」となっている。
その彼がいよいよ、20年ぶりの新一万円札として登場することになる。

「諭吉さん」から「栄一さん」に代わるこれからの約20年間で
「王子駅」を取り巻く環境はどのように変貌するのだろうか。
恐らく自分が見るであろう最後の新一万円札の登場にそんな感慨を重ねている。

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X-Pro3+XF27mmF2.8 R WR

X-Pro3にはXFレンズで最軽量のXF27mm(35mm換算41mm相当)が良く似合う。
ボディサイズとXマウント径が抜群のデザインバランスと造形美を醸し出している。
自分なりの標準レンズとしては、40mm付近の焦点距離が一番しっくりくる。 

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見ても良し、触っても良し、撮っても良し、の「三方良し」の「機能」が
このカメラとレンズの組み合わせには備わっている。
ボディ内手振れ補正の「IBIS (=In body Image Stabilizer)」こそ入っていないが、
昔の一眼レフ・フィルムカメラが皆そうだったように、脇を締めるとか、
息を止めるとか、いろいろ工夫して撮るのも撮影の醍醐味でもある。
今では多少の手ブレも味の内、などと強がりを言うしかないのだけれど、
X-Pro3は実に愛しいデジタル一眼カメラだ。

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(2024/6/22公開)40583   ※ブログ内容は適宜、加筆修正しています。

ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2024年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

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2 Comments

  1. 鈴木隆浩

    セピア色した今回の幼い頃のお話など、私自身も遠い昔の良き昭和を思い出させていただけました。ありがとうございます。

    1. ゼンマイオヤジ

      どの町にもあるありふれた光景が実はかけがえのない記憶に変わる時がいつか誰しもに訪れるかもしれませんね。

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