2023年度の’WATCHES AND WONDERS GENEVA(注1)も4月2日に閉幕した。
パネライからの新作発表も出揃ったところで、今回はこのFOTOLOGのタイトルにもなっている『ラジオミールの方向性』についての私見を述べる。

(注1)リシュモングループ主催の旧SIHHのジュネーブサロンが2020年より名前を変えて開催。2020年に瓦解したバーゼルワールドに代わる形でロレックスやパテックフィリップ、グランドセイコー等の主要メゾンが一堂に参加し、今年は場所をジュネーブ国際空港横の国際展示会場PALEXPOに於いてリアルに開催された。Swatch Groupは不参加。

【論点】
1)ラジオミール商品群の整理・統合について
2)今回発表された40mmケースの’Quaranta’について
3)個人的に期待するラジオミールの今後の方向性について

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旧HomePage『ちょい枯れオヤジの腕時計指南』やWebクロノスのブログでも何度となく述べているように、僕はラジオミールをこよなく愛するファンである。ラジオミールをコレクションするというのではなく、好きなPAM 品番のモデルを溺愛するという観点からである。つまり、僕はコレクターでもなければ、パネライヲタクでもない純粋なる『特定モデルの愛好家』であり、その基準となるモデルは40mm径のPAM00062でありPAM00103であるのだ。

写真左がPAM00062(WG)、右がPAM00103 (RGことオロ・ロッソOro Rosso)
この当時、RGはまだPG(PinkGold)と呼ばれていた。
PANERAIにはYG(Yellow Gold製)は存在しない。

1)ラジオミール商品群の整理・統合について:

この数年来、ラジオミールの商品群は整理整頓を目的とした既存モデルの淘汰が行われてきたと感じている。その最たる例が、「ラジオミール1940」の廃止だろう。個人的には20年以上前から切望していたマイクロローター搭載のP.4000が搭載された時には我が目を疑うほどに歓喜したのだが、「ラジオミール1940」の廃盤と共にこのキャリバーも生産中止されたのは非常に残念である。LUMINOR DUEでもなくなってしまったので、一時の夢で終わってしまったこのキャリバーが何とも惜しまれてならない。後述するが、絶滅危惧種であるマイクロローターの復活は是非とも42mm径モデルに搭載してお願いしたい。

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話を「ラジオミール1940」に戻す。
このモデルはその名の通り1940年代から1950年代半ばにLUMINORが生まれるまでの間で採用されたケースであり、元祖ラジオミールのワイヤードラグを固定式に変更したことが最大の特徴である。このモデルにリューズガードを装着すれば外観上は略LUMINORのケースとなる訳で、まずはそのモデル命名からして「ルミノール1940」とした方がすっきりとするのだが、歴史を曲げられないので復刻モデルであれば仕方ない。個人的にはワイヤードラグを有さないモデルはラジオミールとは認め難い。

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ラジオミールの意味は御存知の通り、放射性物質のラジウムをベースとした夜光塗料を用いたことであり、その後、トリチウムをベースとする自発光塗料に切り替えたモデルが「ルミノール」と呼ばれている。即ち、ラジオミールとルミノールはその蛍光塗料の材質による命名なので、1950年代にエジプト海軍に納入されたあの大型60mm径のエジツィアーノの外見は竜頭ガードを備えて完全に「ルミノール」でありながら、ラジウム塗料が採用されたことで「ラジオミール」と命名されている訳だ。現在のモデルでは、あくまでケース形状の違いで「ラジオミール」と「ルミノール」が区別されているので、そんな中でワイヤードラグを持たない「1940」がラジオミールと呼ばれたことに違和感を持ったのは決して僕のみではあるまい。
ラジオミールとルミノールの呼称の定義を纏めると以下となる:

「ラジオミール1940」の形状はあくまで「過渡期」で短命モデルであったが故に、廃盤とすることには何ら異論はない。むしろ、その結果として「ラジオミール=ワイヤードラグを持つモデル」と言う公式が明確化されたことによる「混乱回避」とラジオミールの「イメージ確立」と言う観点からは歓迎すべきものと考えている。

左がPAM00341のEGIZIANO 60mm径。僕の45mm径BlackSealとの比較で笑える巨大さ。
漆黒の懐中で使用する軍用であること、潜水服の上から着用することからも
60mm径と言うのは理に適っている。あくまでも「海中用の計器」である。

2)今回発表された40mmケースの’Quaranta’について:

ルミノールの中心サイズが44mm径であれば、ラジオミールでは45mm径がコアサイズとなる。実際に装着すれば分かるのだが、ワイヤードラグを備えたラジオミールのクッションケースはルミノール対比でコンパクトであり小さく感じる。よって、ルミノールよりも1mm大きいサイズを中心とすることは理に適っている。逆に、今回『再登場』となった40mm径は可也小さめであり、ドレス時計には最適サイズだ。流石に45mm径のラジオミールは仕事用には不向きであるが40mmであれば違和感なく利用できる。これは一つのセールスポイントと言えるだろう。

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ラジオミールのサイズ展開は現状では以下となる(赤字が今回の新作):

49mm PAM00600(ミニッツリピーター)
48mm 1940モデルのPAM00577 (ブラックセラミック製)
47mm PAM00760(ブロンズ製) ※1935年のプロトタイプと同サイズ
45mm 8-days(青/茶のオットジョルニ)グリーンカリフォルニア、BlackSeal、Base、
    Annual Caldendar等の主力&新作モデル
40mm クアランタ(新作SS/RG)

48&49mmは特殊時計用の例外として、47mmは元祖パネライのサイズなので永久不滅。
45mmが主力サイズであり、大きさも実用的。しかし40mmのSSモデルでも価格が80万円以上というのがBASEやBlackSealと比べても割高感が否めない。更には長針が過去のPAM00062/PAM00103と同様に0.5~1.0mmほど短いのである。それが故に文字盤の全体バランスが8-DAYSなどと比べればどうしても「寸足らず」と感じることになる。この点は是非とも改善を望みたいところだ。

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40mmはON/OFF問わぬ絶妙なサイズなので今回の復活と新作投入は上記2点を除いては歓迎されるべきであり、今後も45mmと共存共生して定着することを期待したい。

3)個人的に期待するラジオミールの今後のあるべき方向性について:

以下の方向性についての私見を述べる:

グラスバックモデルが絶滅危惧種となっている点:
 現行モデルでグラスバックが激減している。新作ではクアランタのゴールドテックと8-daysくらいだろう。自社ムーブメントは地板で大半の面積が覆われているので見どころは少ないが、「グラスバック精神安定症候群」に侵されている僕にとってはそっけない裏蓋では心穏やかではない。ラジオミールで潜水やスキューバをする御仁は稀有であり、圧倒的に陸ダイバーがユーザーであるのだから是非ともグラスバックモデルを増殖して欲しい。自社キャリバーを世間の目に晒すことは決してパネライとしても、メゾンとしても利益になれど不利益は無いはずだ。ROLEXのように頑固にクローズドを押し通す必要はなく、10年前のパネライ商品群のようにグラスバックを増やすことが結果的に自社キャリバーの技術力を示すことにもなるのだから。加えて8-daysオットジョルニのようなロングパワーリザーブのモデルには以前にもあったように裏面側にパワーリザーブ針を加えて欲しい。少なくとも8日以上のロングパワーリザーブを誇るのであればパワリザ針による「残量の識別」と「目の保養」は不可欠だろう。

45mmを主力モデル用とし40mmと42mmでドレス系を充実させる方向性こそが正義
 45mmの8-daysは今年2種類の文字盤を投入したが、それと引き換えにポリッシュケースの現行PAM00992が近々disconになる情報がある。8-days(=伊語”オットジョルニ”を今更押し出してくるのは違和感あるが)の新作ケースがPVD加工によるアンティーク加工されている訳だが、個人的には興味は薄い。マスコミの提灯記事はこのPVD加工を「クールだ」と囃し立てるが正直、美的感覚を疑う。これをやるならせめてブラッシュ仕上げのノーマル仕様(PAM00992)は存続させてユーザーに選択肢を残すべきである。PAM00992を好む向きは今が入手するラストチャンスとなる可能性がある。
 話が逸れたが45mmに加えて40mmを今回投入したことは良しとしても、やはり42mmの復活は必要である。後述の見栄えあるキャリバーとの関連からもドレスウォッチ用としてのラジオミールの品格を上げるためには40mmと42mmはマストの展開だ。理由は❸の通り。

42mm復刻と同時に42mm用キャリバーP.999とその後継キャリバーのP.1000、
 P.4000の復刻搭載を切に望む:
 この3つの自社キャリバーは他のスイスメゾンに対抗する為にも、そして、ラジオミールを本格的なドレスウォッチとして拡充する為にも必要不可欠な展開である。過去の搭載モデルは3種類のキャリバー共に42mmサイズである。通常の時計で42mmは極めて巨大クラスになるのだが、ラジオミールのクッションケースとワイヤードラグによって丁度良い大きさ(小ささ)となるので、洗練されたP.999/1000/4000の3つのキャリバー(乃至はP1000と4000)を組み合わせることは非常に魅力的な戦略モデルとして展開可能と考える。勿論、貴金属製のみならずSS製のケース展開も必須である。45mmでドレス用は有り得ない。つまり、現時点ではラジオミールの45mmモデルを仕事用に使うことはNGでありマナー違反と認識する方が正しい。(注2)

上記3項目の課題を一つづつ実現させることによってラジオミールのモデル展開は盤石なものへと確立されて行くと期待している。

(注2)業種によって事情が異なることはあろうが一番怖いのはユーザーの錯誤と思い込みによるTPOへの無頓着さである。

P.999搭載のPAM00337 ケース径42mm。ロンドンのBoutiqueにて撮影。

この手巻きP.999は絶滅危惧種のチラネジまで搭載された6振動キャリバーだ。
2010年製であるが、是非とも復活を実現させて欲しい垂涎モデルである。
CAL P.1000: 8-days用のP.5000のダウンサイズ版とも言えるデザインだが、
分割ブリッジを1枚の地板に代替している。このデザインが非常に美しい。
「ラジオミール1940」用に開発されたP.4000はマイクロローター搭載。
これはP.4001でパワーリザーブ表示が付いたGMT用の「理想的キャリバー」だ。

将来的にも残すべきPANERAIの歴史的遺産&傑作キャリバーであろう。
新旧40mmラジオミール (撮影日2023/4/8)

(2023/4/3公開) 1562

ゼンマイオヤジ

ゼンマイオヤジ

2023年になっても愛機ラジオミールがゼンマイオヤジを離さない。
でもロレもオメガもセイコーも、フジもライカも好みです。
要は嗜好に合ったデザインであればブランド問わず食いつきます。
『見た目のデザイン第一主義、中身の機械は二の次主義』

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2 Comments

  1. 鈴木隆浩

    パネライは私も一度は物欲がメリメリ湧いた時計です。
    銀座に行けば、並木通りからブティック前のガラス越しにいつも覗いています。
    あの通りは、時計好きが集まってますね。
    ところで、デカパネライ、初めてみました。すごいのもってるんですね。
    普通のパネライでも「デカ」って思いますが、あんな大きいのはびっくりしました。
    そして、さすがの「ゼンマイオヤジ」の考察、勉強になります。

    1. ゼンマイオヤジ

      「デカパネライ」はミラノのブティックで撮影したものです。もう笑うしかない、これぞ正真正銘の「目覚まし時計」でした。

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